桔梗の間

□俺が王だ。
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積み上げられた数多の躯。

辺りに充満する濃い屍臭。

屍肉を喰らう猛禽らが蒼空を旋回する羽音が聞こえる。


戦の傷痕が生々しく残る大地を旺季は僅かな供と一緒に黙々と進んでいた。
向かうはかつての朝敵、そして今や彩雲国の全てを手に入れんとする男のもと。


その陣に入ると一斉に視線が自分に集中した。
一拍して嘲笑が沸き起こり、罵倒の言葉が四方から飛んでくる。

惨めな敗者に対してぶつけられる剥き出しの悪意に、もう諦めたはずの激しい感情に目の前が真っ赤に染まる。
片っ端から斬り殺し、そして美しく散れたらどんなに楽だろう。
だが、旺季は行かなくてはならなかった。
どれほど惨めな目に遭おうとも、貴陽の民を守るためには。

足を引きずるようにして、あの男の居る幕まで向かう。
「来たか」
妖公子戰華は氷のような美貌に三日月の笑みを浮かべ、気だるげな仕種で旺季を見た。
回りには戰華の配下の猛将知将がずらりと控えていた。

そして。


(「荀馨様。」)

かつて如何なる時も優しく諭してくれた彼は、物言わぬ首となり、みすぼらしい台の上に載せられていた。

ああ、宝箱から、また大切なものがこぼれてしまった。


視線をゆうるりと戰華に戻すとき、慧茄が視界に入った。
なぜか彼は顔を歪めて旺季を見た。
旺季は自分が今どんな顔をしているかわからなかったが、慧茄を見るに、余程酷いらしかった。


「講和の申し入れを受けていただきたく参じました」
荀馨のしてくれた数多の献策は全てこの為なのだから。
感情の奔流が押し寄せるのを抑えつけ、ただ冷ややかな目で戰華を見据えた。
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