桔梗の間
□忌々しい。
1ページ/1ページ
「ええい、忌々しい!」
藍の衣を来た、クソ性格の悪い男と会ったのは数刻前。
突然邸に文(藍家直紋入り、来なかったら養い子に相手してもらうから』の脅し付き呪いの手紙)が送り付けられ、たぶん苦虫を千匹ほど噛み潰したような顔で指定の室に行った。
『相変わらずだな』
それはお前の方だろうと怒鳴る前にあの嫌味な顔が近付いてきた。
あれやこれやという間に押し倒され、終わった後はぐったりした黎深を置いて高笑いしながら去っていった。
(「なんなんだあのねじ曲がった性格は!」)
自分の事は棚に上げて思い付く限りの罵倒の言葉を心の中で連ねる。
文には嫌味にしか取れない内容を書くだけ、久方ぶりに会っても優しいことば一つかけず、終わったらすぐに居なくなる。
たまに自分は本当に愛されているのか不安になる。
そんなこと死んでも奴には悟らせはしないが。
「雪那の馬鹿が……」
膝を抱えて座り込んだ。
体に移った、あいつの香が鼻腔をつく。
自分が絶対に使わないような、どこか艶やかな、それでいて高雅で、甘そうなのにたまにつんとした高貴な何かが混じる。
あいつそのもののような、自分でも判別不可能なぐらいのごちゃごちゃ複雑な香り。
やめろ、こんな中途半端なものだけ残すな。
まるでお前に包み込まれているみたいじゃないか。
「くそ、忌々しい…」
黎深はさっきとは違う声音で呟いた。