桔梗の間
□仮面、とりませんか?
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「ですから、いい加減とりましょうよ!」
「この忙しい時期に戸部官が一人でも倒れたら面倒だ」
「私なら大丈夫ですって!」
戸部では連日(新人)景柚梨と(先輩官吏)黄鳳珠による言い争いが行われていた。
戸部官達には仮面が万が一取られた場合、すぐに机の下に隠れるように厳命が出されていた。
そんな状況をつゆ知らず、正統派穏やかさんの新人は今日もくってかかる。
鳳珠は一向に引き下がろうとしない彼にため息をついた。
「柚梨」
「なんですか?」
「これやっておけ」
「へ?って、ぅわ!」
新人相手にはどう考えても多すぎる仕事を押し付けられ、柚梨は泣く泣く机に戻った。
時折「鬼」やら「冷血鉄仮面」などという啜り声が聞こえてきたが、鳳珠は無視して自分の仕事にうちこんだ。
『仮面、とりませんか?』
戸部に配属されて一週間ほど経った後、柚梨は意を決したようにたずねてきた。
それからはや二週間この闘いは続いていた。
(「勘弁してくれ」)
自分に国試をうける勇気をくれ、官吏としての道を照らしてくれた彼にまで顔を拒絶されたら、さすがに耐えられない。
鳳珠は仮面の紐を更にきつく結び直した。