桔梗の間

□わりィ。もう行ってくれ。
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「司馬迅の死刑が明日執行される」
兄の一人がそう告げると同時に、楸瑛は室を飛び出した。

「迅っ!!」
堅固な牢城の、最奥。
そこに親友は居た。
「んだよ楸瑛。そんな慌てて」
明日処刑されるという彼は、いつものように飄々としていた。
そのどこまでも清々しく、そして既に覚悟を決めてしまった態度。

楸瑛はよろめき、彼の房の鉄格子をかろうじて掴んだ。
その手が、震えた。
「私が中央になんていなければ…」
「楸瑛」
「私がもっと早くに気付いていれば…」
「おい」
「私が、」
「いい加減にしろ!!!」

突然の迅の怒声に驚き、楸瑛はうなだれていた状態から頭を起こした。

迅は先程まで房の奥に座っていたはずが、今では鉄格子のすぐ近くまできていた。

「お前のせいじゃない」
しぼしだすような声は苦しげで、間近でみた顔は今までのどんなときよりも歪んでいた。

親友のあまりに辛そうな様子を見て、楸瑛は少しひるんだ。

「迅。どうして私に言わなかった?」
「お前まで巻き込みたくなかった」
「お前はもういいのか。
処刑され、終わらせてしまっても」
楸瑛は唇を噛み締めた。
そうしなければ、瞳から熱いものが零れそうだった。


「私は、お前を喪うなんて堪えられない………」
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