桔梗の間
□お久しぶりです。
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「あれは…」
鳳珠は大量の書類を持って走り回る進士の中に見たことのある顔を見つけた。
(なんなんですか!?この書類の量!前も見えないですし…)
と、横から彫刻の様に美しい手が伸びてきた。
「すこし持とう」
え、と思い柚梨がそちらを見ると…
「…………」
そこには仮面の男が立っていた。
いつものらくらと穏やかに生きてきた柚梨にとって、人生で一番反応に窮した瞬間だった。
え〜と…
まず「ありがとうございます」か?
いや「なんで仮面なんですか」?
いやそもそも「誰ですか」?
まず第一声をなんて言おうか迷っていると、仮面の男は申し訳無さそうにした。
いや仮面で表情はわからないが、何となくそんな気がする。
その時彼のとても美しい絹の髪に、妙な既視感を感じた。
「迷惑だったようだな。すまない」
そう言って立ち去ろうとした男を柚梨は呼び止めた。
「もしかして黄鳳珠殿ですか?」
男の驚き、そしてかすか嬉しそうな気配に、柚梨は確信した。
「あなたに、会いに来ましたよ」
約束通り、官吏になって。
そのときたぶん男は、はにかみつつ満面の笑みを浮かべていたと思う。