04/19の日記

18:48
忍岳:一番好きな赤
---------------


放課後の教室は哀愁があってええ感じや。

忍足は心の中で一人呟く。

校庭からは部活動に励む1、2年の姿があり、かけ声がこだまする。野球ボールを打つ音だったり、マネージャーらしき人物の掛け声だったり、走り込みをする部員達の声だったり、廊下を歩けば吹奏楽の奏でる音色が響いてくる。みんなそれぞれの音色を奏でている。
まさに青春とはこの事を言うのだろう。

時刻は夕方5時。
オレンジ色した太陽がゆっくりと沈んでゆく時間帯だ。
誰もいない教室で、忍足は机に座り窓から夕焼け空を見ていた。
空がオレンジ色で教室にもそれが反映する。
今日はいつもより赤みがあり、オレンジというよりは赤に近かった。

手の中にある携帯を開くと少し前に届いたメール画面のままだった。いつも一緒に帰る恋人は、今日は急な委員会の集まりがあってこの場にはいない。遅くなるから待ってなくていいと言われて別れたが、一人で帰る気分でもなかったのでこうして待っていることにした。
待ってるなんて本人に言えば、口の悪い性格からか馬鹿じゃねーの!と罵倒されるに違いない。だからこそ忍足は黙っていた。
なのに、委員会の合間に届いた恋人からのメールには忍足の行動が見事に見透かされていた。


『まだいるんだろ?』


待ってるなんて一言も言っていなかった。
なのに、岳人にはわかっていた。

「…変なとこで鋭い奴やな」

これには忍足も感心してみせる。
そして素直に「教室におる」と返信をした。
それから返事は一向に返って来ない。
大分長引いているのだろう。
気長に待ってみるかと決め込み、机から離れ沈む太陽をじっと見つめる。

丸い太陽がビルとビルの間に消えてゆく。
此処からだとちょうど掌に収まるような大きさだ。
けして掴めはしないのに、忍足は無意識に手を伸ばす。
綺麗やなぁと呑気に眺めていれば、ほぼ同じタイミングで廊下から騒々しい足音が聞こえてきた。

「あ、いた!ユーシ!」

バタバタと騒々しい足音が自分の後ろで止まる。
せっかくの雰囲気がぶち怖しやな、と心の中で苦笑するも嬉しげな表情をこっそり浮かべる忍足は飛んできた恋人の方へと振り向く。

「お前な、待つのはいいけど何処のクラスにいるかちゃんと送れよ!」

委員会帰りの岳人は慌てて来たのか髪がぐしゃぐしゃになっていた。さすがにどのクラスにいるかまではわからなかったらしい。変に鋭い時もあるが、これがいつもの岳人だ。

「堪忍、それとお疲れさん」

そう言ってクシャクシャになった髪に手を差し入れ、ゆっくり撫でれば見え隠れしていた表情が露になる。夕陽に染まった岳人の表情は忍足から見れば沈む太陽よりも綺麗で、

「っ…オイ、侑士!」
「大人しく待っとったご褒美貰わんと」
「お前が勝手に待ってたんだろ!!」
「ええやんか少しくらい、」

思わず抱き締めた。
学校でやめろとか馬鹿とか眼鏡とか散々な罵倒も沢山言われてしもたが、離す気あらへん。

俺は今日の夕陽に負けへんくらい綺麗な、岳人の赤い髪にそっと唇を寄せる。





岳人の赤い髪。
俺の一番好きな赤。








---------------------------
お久しぶりです。

リアルの生活でバタバタしているうちに、戻るまでこんなに時間が掛かってしまいました。
長く留守が続いてしまい申し訳ありません。
久しぶりにサイトを覗き、未だに訪問があったりと、嬉しい限りです。

これからも少しずつUPしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


ちば


前へ|次へ

日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ