06/23の日記

01:40
仁岳:all for you
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″人のことはよく見ていても
自分自身のことは見ていないの

だから貴方は駄目なのよ、もうついていけないわ゛



まるで、俺のすべてをわかった風に喋りよる年上の女の顔は今はもう覚えていない。
代わりにこの言葉だけがはっきりとしている。

別に気にしとらんが、当時の俺にとっては特に印象的な言葉じゃった。

よくもまあ、そんな台詞が言えたもんだと。

見た目や上辺だけで俺を選んだだけの奴に言われたくなか。
ドラマみたいな安っぽい台詞に吐き気がするぜよ。













「…そう言われても」

今まさに、その女と同じ事を言われた俺は少し困っていた。
さすがに「付いていけない」とは言われてないがのう。

「だから、お前はいつも人のことばっかじゃん!少しは自分のことも気にしろよな。あーあ…すげえ熱あるし。お前さ、馬鹿じゃねえの?いや、馬鹿だろ。馬鹿だな!馬鹿だ!馬鹿!」

「………。」

馬鹿とはなんじゃ。馬鹿とは。
そう言いたくても何も言えん。


久しぶりの休日だった。
恋人である向日と過ごす為に神奈川からやって来た俺は、柄にもなく期待に胸を膨らませとった。
それがどうしてこうなったのかのう。
今は向日の家に居て、向日のベッドに寝とる。
やましい意味で…という訳ではないのが残念じゃき。

「普通気付くだろ?熱あることくらい」

「痛いのう…もう少し優しくしてくれんか」

「十分優しいだろ!」


額にひんやりとしたタオルを投げつけられた。
…何処が?
眉間に皺を寄せた向日は「文句あんのか」と言いたげに睨んでくる。ないです。

どうやら俺は熱が出とるらしい。
そういえば少し、体が熱い気がする。
かと言って、特に気にしとらんかった。

しかし、向日に会って早々に怒鳴られ手を引かれるまま此処に連れられた。
いきなりベッドを指差して「寝ろ」と言うもんだから、今日はやたら積極的じゃと感動しとったらこれか。
それでも病院という選択肢を無視して、わざわざ家に連れ帰るとは。
ということは、それくらいの展開は期待しても罰は当たらんじゃろ?

「ったく…仕方ねえ奴」

はーっと溜め息を吐いた向日は俺の傍から離れると椅子に腰掛ける。
久しぶりに見る向日の姿。
バタバタと忙しなく連れられたせいか、よく見とらんかった。
切り揃えられた髪は相変わらずで、男にしてはよう開いた瞳。つまり可愛い。
何も変わらん。
こんな風に寝込む羽目になるとは思わんかったが、結果的には来て良かった。
ただ、せっかく一緒に居るんじゃからもっと近くに居りたい。

「のう、岳人。もっと近くに来んしゃい」
「なんで」
「触りたい」

―ばすっ

「おまん…仮にも病人相手じゃろ」
「だったらその露骨な感じをやめろ!!」

痛い。
クッションが高速で顔に降ってきた。
こやつ…相変わらずの恥ずかしがり屋じゃき。
今度からはもっと言葉を選ぶとするかの。


「せっかくお前さんに会いに来たのにベッドに縛られてちゃ退屈じゃ…岳人ー、岳人は居らんかー」

チラ、と横目で見てみれば申し訳なさげな表情を浮かべる岳人が。
そんなに遠くない距離を一歩一歩詰めていくと渋々ベッドに腰掛けてきた。
今日はやたら素直じゃな。
すかさず手を伸ばし赤い髪を撫でてみる。
おー、久しぶりじゃ。変な感動が生まれる。

「言ってみるもんじゃな」
「うるせえ…ったく、お前のその無自覚さどうにかしろって」
「どうにもならん。お前さんが居る限りな」
「はぁ?」

意味がわからないと言った表情を見せた岳人に微かに口端が上がってしまう。
こんだけやっておいて気付かんのもある意味才能と呼べる。
徐に起き上がれば突き返されそうになるが、生憎熱があってもしんどく感じない。
あっさりその手を取って岳人をベッドに押し倒す。
暴れられる前に軽いキスで予防した。
軽いものから深いとこまで。
久しぶりに味わう感覚を堪能する。
途中、フリスクのようなものが邪魔をしたが面倒になった俺は奪い取るとそのまま飲み込んでしまった。

「…苦い。なんじゃ、さっきの」
「新しいフリスク…つーか、いきなりふざけんな!!」

顔を離すと息を切らす姿が目に入る。
真っ赤になった顔が不機嫌色に染まる様が愉しくて仕方ないぜよ。
これは完全に俺のペース、もっと追い詰めたくなる。
そんな事を思いながら、岳人の顔の横に両手をついた。もう逃がさん。

「な…なぁ、雅治」
「?」
「お前、やっぱ熱いよ」

岳人の手が頬に添えられ、ひんやりとした感覚が伝わってきた。
それを心地よく感じるのは熱だけのせいじゃない。
思わず目を閉じたらそれが誤解を招いたのか、不安げな声色で心配するように見てくる視線を感じた。
不安にさせたり、一人にさせたり、寂しくさせたり、虐め過ぎたり。
基本的にこっちの方が得意じゃ。
だから慰める方法なんぞ知らん。
とりあえず適切であろう言葉を伝えてみる。

「そう心配しなさんな、お前さんを抱く体力くらいあるき」
「ふ…ふっざけんなクソ!!あーもう…心配して損した!くそくそ今すぐ神奈川に帰りやがれ!!」
「……。」

…どうやら間違えたみたいだの。


「すまん岳人、間違えたぜよ」
「間違えたってなんだよ、このエロ詐欺師が」
「エロ詐欺師…なんじゃ、その不愉快極まりない呼び名は」

暴れ出す体を腕に閉じ込めながら呆気に取られる。
きっとあの丸眼鏡や金持ちのせいじゃろう。全く、油断も隙もないとはこういう事か。

「そういえば跡部が…」
「他の男の話なんぞ聞かん」

腹が立つから力を込めて抱きしめた。
何故に二人でいる時にまで跡部やら何やらの話を聞かねばならんのか。
ああ、余計なことを考えたら頭がぐらぐらしてきたぜよ。

「……お前って、意外と変に気にするんだよな」
「なにがじゃ…」
「別に。心配性だってこと、大丈夫だから安心しろって」

ポンポンと頭を軽く撫でてくる。
抱きしめてるのは紛れもなく俺じゃ。
おかしい、なんじゃろう…不思議なことに抱きしめられている気分になる。
「ゆっくり休めよ」と耳元で囁かれた。
なのに次第に睡魔が襲ってくる…おかしい……意識がどんどん遠くなってくような。


(……薬でも盛られたかの…?…)


まさか、詐欺師の俺が騙されるとは。


「なにを…」

「少し眠るだけだ。俺なら傍にいるから、安心しとけよ」

「さっきの…、」

「だから大丈夫だって。なあ、少しは甘えたっていいんだぜ?大丈夫だ」

そんなことはあるはずがないと何処かで確信しながらも、先程のキスのフリスクはもしや…なんぞ考えとったら肯定する言葉と的外れな答えが返ってきた。

一体何が大丈夫なのか。
現に、今の俺はフラフラじゃ。

「風邪の特効薬、効いてきただろ?」

けろっと話す岳人が鬼に見えた。
もやもやした意識の中、眠りたくないという意志と体調の悪さが瀬戸際で戦っている。
まだ何もしとらん…しかし、こんな状態ではもはや何も言えん。
…無念ぜよ。



岳人が傍にいる心地よさ、それを知ってしまったからには簡単に抜け出せん。
誰かに一番に想われる日が来るとは、正直思わなかったが。



「おまん…起きた時は、覚悟しんしゃい…」





結局は、本能に従いそのまま意識を手放すことにした。



(起きたら…絶対、仕置きするけ)





これだけは忘れないようにしよう。
仁王は心の中で決意をすると同時に、瞳を閉じた。

その身を、自分の居場所である岳人の腕に預けて。
































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風邪引き仁王と岳人でした。
何故に風邪ネタかと言えば、私が風邪で寝込んでいたからです。。
夏かぜ?というか、この季節の風邪は地味に酷いですよね。
皆さんも気をつけてくださいね´`


だいぶ留守してしまいました、すみません!!!
遅れを取り戻せるよう頑張ります。


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