お題 A×G

□お前、彼氏いないだろ?
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先程と同じ反応を返せば、跡部は眉を顰めた。
いやだからその反応はこっちがしたいんだっつの!

「…付き合ってる奴なんかいないだろ?」

何処か歯切れの悪い、それでいて跡部らしくない確認するかのような台詞に岳人は違和感を覚える。

どうして俺にそんな事を聞いてくるのか。
もしや自分のモテ自慢でもしたいのか。
跡部程ではないが、自分だってそれなりにモテてはいる方だ。女子とよくメールのやり取りをするし、遊んだりもする。
バレンタインの時だってそれなりにチョコは貰う。
この前だって1つ下の子から告白だってされた。
……まぁ、タイプじゃなかったから断ったんだけど。

普段から考え込むような真似はしない主義だが、何か裏があるのかと頭の中で逡巡する。
それと同時に着替えを終えるとロッカーの扉を閉めた、無機質な音が部室に響く。

いつの間にか部室のソファで寛ぎモードの跡部へと再び視線を合わせる。
寛ぎながらも答えを待っているようだ。
『早く答えろ』と言わんばかりに睨んでいる。
何度も言うが、その無駄に偉そうな面を今すぐぶん殴りたい。

「いねーよ、そんな子。つーか跡部さ、今の俺らはそれ所じゃねえだろ?大会だってあるんだし」

鞄とテニスバックを掛け、ソファで寛ぐ跡部の前で腰に手を当てながら答える。その姿は非常に面倒くさそうだ。

女の子に興味がないわけじゃない。
ただ、正直今はテニスの事で頭がいっぱいだ。
それは跡部も違わないだろうと、意味を込めて伝えた。

「そうか」

だがそんな向日の態度にも気にせず、それだけ返すと跡部は薄く笑みを浮かべながら…

「…なら、俺様が貰ってやる」

「はぁ!?」

爆弾発言とはまさにこの事だろう。

まさかの発言に付いていけない向日は、野生の勘が働いたのか後退りだす。
それを予測していたのか、すかさず立ち上がった跡部は向日の腰に手を添えて一気に引き寄せた。

「ッ…おい、跡部!お前なに言っ…待て待て待て、なんだよこの…」

「好きだ」

「手は……って、…は?」

「俺様が貰ってやるって言ってるんだ、感謝しろ」

此処は部室で、何故か男と男が密着しているこの状況。
しかも今こいつは何て言った?
好きだって言ったか?今、好きだって!
誰を貰うって?感謝しろ?

………はぁ!?


状況に付いていけない向日の姿を見て勝ち誇った表情を浮かべる跡部は、向日の自慢の赤髪をそっと一撫ですると満足げに微笑んだ。

「今からお前は俺様のモノだ」

手の温もりが直に伝わってきて心臓に悪い。
それに、この無駄に整った顔が間近にあるのも心臓に悪い。悪過ぎる。
向日は心の中で呟く。


「フッ…ちゃんと覚えとけよ?」

「っ…」

しかし、不意に見せたその表情が何処か優しく、暖かく感じたのは気のせいか。
それだけ告げるとあっさり手を離した跡部は『鍵ちゃんと閉めとけ』といきなり部長らしい言葉を付け足し、後ろを向いてさっさと帰ってしまった。


「………。」


部室に一人きりにされた向日はその場にぺたりと座り込む。
さっきまでの出来事と、跡部の言葉。
そしてあの満足げな表情と髪に残った微かな温もりにしばし言葉が出なかった。
脈打つ心臓もなかなかおさまってはくれない。








「って、あの野郎……………やっぱぶん殴る!!!」


うっすらと朱がさす頬は怒りに震えているからだ。
心臓がバクバク煩いのは、跡部のあんな表情を見たからだ。

『好きだ』



…な、なんでここだけリピートしてんだ俺の頭!


「なんで…っ、この」



なんでドキドキしてんだよ、俺―








部室にはしばらく『くそくそ跡部め!』という不満たっぷりの叫び声が続いた。





そして部室の外では、王の満足げな高笑いが響いていた。




Fin

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