O×G

□ただ、君を想う。
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好きになった奴が男やなんて、ボケみたいな冗談は絶対に有り得へん。第一笑えへんわ。

そう思うとった。

普通に女の子が好きやった。そないな趣味もあらへん。
ただ…岳人は不思議と他の誰とも似てへん所があってん。
誰の代わりにもならんっちゅーか、岳人は岳人や。
俺はすぐに岳人でしか駄目んなった。誰よりも特別になった。
とにかく傍に居りたかってん。
いつも、いつでも、岳人の一番で居たいと思うとった。

せやけど俺らは男同士。
簡単に打ち明けてええ話やないのはわかっとる。
言うた後に成就する可能性なんてないやろ?針の穴に糸を通す事の方が確率があるくらいや。

これが世間一般的な恋愛なら『純愛』とでも呼ばれるんやろか。

せやけどそんな綺麗なモンやないで、俺が岳人に抱いとる気持ちは。
抱きしめたり、キスしたり。それ以上の事もしたいと思っとる。
俺はどっかおかしいのやろか?何度も何度も考えた。

『見てるだけで良かった』
そんな言葉で誤魔化そうとした日もあったわ。

最終的に、俺は岳人に告げてしもた。
不甲斐ない自分を呪いながら。
やけど岳は、俺の気持ちを全部受け入れてくれたんやで。

俺の邪な気持ちも、独占的な部分も、岳人は全部拾うてくれた。救ってくれた。

せやから今こうしてるんやけど、たまに後悔したくなる時もある。

例えば俺が、自分の世界に岳人を引き込むような真似をせんかったら。
岳人は岳人で好きな子と付き合うて、普通の人生を歩めたんやないか…とか。


(……あかん、また考え過ぎてしもた)



気が付いた時には映画は終わり、スタッフロールが流れていた。
出演者の名前と、その横には映画の各シーンが抜粋して映っている。
あの後二人は結ばれたらしい。
画面には幸せそうな二人の映像が続いている。
あんなに観たいと思っていた映画だったにも関わらず、最後の最後で集中することが出来なかった。
それよりもリアルなセリフに過去の自分を重ねてしまった。

岳人は眠ったまま動かない。
繋いだ手から伝わる温もりに現実に返りつつ、空いている手で岳人の肩を揺らす。

「岳人、起き…終わったで」

今はなんとなく起きて欲しい気分だった。
肩に回した手で包み込むように抱きしめるとわざと耳元で囁く。
ついでに軽く噛みついてみた。これなら確実に起きるだろう。
案の定岳人は一瞬だけ体を揺らし、閉じられていた瞳がうっすらと開いた。
無理矢理な起こし方が悪かったのか、若干不機嫌そうだ。

「……てめぇ、ゆーし…!」
「映画終わったで。せやから構ってや」
「はぁ?意味わかん……っうわ、」

不機嫌でも何でもいい。
そう言わんばかりに、忍足は岳人を抱き上げるとそのままベッドへ降ろし自分は岳人の上に被さる。
被さるというか、自分から抱きつくような形だ。

「なんだよいきなり…侑士?」

違う方の勘違いをしてしまった岳人は面食らった表情を浮かべながらも、自分の胸に顔を埋めたままの恋人の様子に違和感を覚える。
大方、映画を見て面倒な影響を受けたんだろうと予測しながら。

「…なぁ岳人、好きって言うてや」
「………。」

ほら見ろ、やっぱり変な影響受けてやがる。
だからこいつとラブストーリーなんか見たくないんだよ。

岳人は心の中で毒吐く。
それでも、自分の胸に顔を埋める忍足の髪に手を伸ばすと撫でるように滑らせた。
ラブストーリーは正直見たくはないが、こんな状態の忍足を他人に見せることの方がなによりも嫌だった。

「侑士、さっきの映画って悲恋だったのか?」
「ちゃうよ。ハッピーエンドやった」
「じゃあなんで…」
「岳人の声で聞きたなった。言うてや、最近言うてくれてないやろ?」
「……じゃあ顔見せろよ」
「此処で聞くのがベストなんや」
「………。」

面倒な上に変に頑固な恋人。素直に甘えることも出来ないらしい。
全く扱いづらい奴だぜ、と心の中でため息を漏らす。


「…侑士が顔上げないからキス出来ないじゃん」
「え?」

「「あ」」


岳人の一言に釣られ、つい顔を上げてしまう忍足。
やっと二人の視線が絡む。
忍足はしまったと言わんばかりの表情を見せ、岳人はニヤリと口端を上げた。

「なぁ…侑士」

種も仕掛けもない飾りだけの存在をゆっくり外してやる。
ガラス越しじゃなく瞳と瞳がぶつかって、表情がよく見えた。

「お前、泣きそうな顔してる」

言いながら髪に触れていない方の手を頬に添えると、岳人の手に忍足の手が重なった。
忍足は添えられた温もりにしばし目を閉じ、苦笑気味に笑ってみせる。

「岳人の事想うとったら、好き過ぎて泣きたくなったんや」

普段はポーカーフェイスを気取っとる癖に、なんてザマや。
岳人の前では何も隠せなくなる。
感情を晒すような真似はせんかった俺が、岳人の前ではうんざりする程感情を晒しとる。

これ以上どないすんねんっちゅーくらい、好きで好きでたまらん。

「…岳、堪忍な」

所謂、普通の世界から切り離してしもて。俺の所に引き込んでしまって。
俺が岳人に好きやと言わなかった未来があったなら、きっと岳人は普通のままでいられたんやろな。
せやけど岳人は俺と居る。
今も隣に居てくれとるから、俺は毎日幸せなんやで。

「馬鹿、なに謝ってんだよ」

重ねた手はそのままで素直な感情を真っ直ぐ伝えた…やけど岳人の表情は不満そうや。ばしっと頭を叩かれた。
…これ、何のツッコミ?今割りとシリアスな雰囲気ちゃうの?

「また余計な事考えてんの?ったく、恋愛モノみて自分と比べるところとか良い加減にしろっつの。俺は好きで侑士といんの、誰に強制されて付き合ってる訳じゃねーし流されてるわけでもねぇ!そもそも、俺らは俺らだろ?…そんなに気にすんなよ」

言いながらまた叩かれる。
何気に俺が嬉しがる言葉が含まれているから、かわす気になれんのや。

「ちょ…岳、叩かんといてや」
「うるせー馬鹿、侑士が訳わかんねぇ事言うからだろ!」

暴れる手を軽く掴むと力強く握り返された。
と同時に、爆弾投下。

「大体な、俺の事好きなら映画なんかに惑わされないで俺だけ信じてればいいだろ!くそくそ、」

「は…」

そりゃまた、随分な事を言うてくれる。
それがどんな意味を持つのか、俺にどんな影響を与えるのかわかってて言うてるのか。
…多分わかってないやろな、それでこそ岳人や

アカンなぁ…抱きしめたくなるやん。


「岳人」

自分でも驚くくらい甘い声が出てビビったわ。
我慢出来んくて、上に被さったまま再び岳人を抱きしめる。
ああ好きやな、幸せやなぁって心の底から思う。
俺ん中で渦巻くくだらん不安要素は、いつだって岳人によって砕かれる。それがまた、心地良い。

「そないに男前やと惚れ直してしまうわ」
「いいぜ、もっと惚れてみそ?」
「ガックン…殺し文句やで、それ。ほんまに敵わんなぁ」
「侑士は考え過ぎなんだよ」
「せやな…そうかも知れん」

自分より何倍も男前で粋な恋人は背に腕を回しながらどんどん駄目出しをしてくる。
それすらも俺にとっては愛の言葉に聞こえるで?
なんて言うたらまた呆れられるんやろか。



「岳人、好きやで」
「俺も好きだぜ」


二人で言い合うと、どちらともなく笑った。










『見てるだけで良かった』


そんな風に思った時もあった。
今の自分からすれば到底無理な話や。


これからも君の隣で、君の一番近くで。

今よりもっと想うから。


これからもどうか、この時間が続くように。




Fin.

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