!! HAPPY BIRTHDAY !!
□For you
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誕生日当日。
今日は部活の時間帯に向日さんの誕生日パーティーがある。
主催はもちろん跡部さん(主に資金)で、三年生レギュラーも絡んでいる。
何故引退した三年生が後輩の部活時間を奪うのかと疑問にも思ったが、そういう所も引っくるめて尊敬されている人達だ。
たまにはこういうのも悪くないと無理矢理自分を納得させた。
一応、日付が変わった瞬間に簡素なメールと電話はした。
あの人はこういう事が好きだろうから。
メールを読んでからの方がいいかと思い、2〜3分経ってから電話をした。そうしたら「メールは日吉が一番だったけど、電話の一番は侑士だった」と最悪な言葉を吐かれた。
…忍足さんに、下剋上。
元々のダブルスパートナーである忍足さんは、俺にとっては常に下剋上対象の人間だ。
お陰で今日は朝から気分が悪い。
それでも鞄の中には1ヶ月前からしっかり準備していたプレゼントが潜んでいる。
去年の誕生日はこういう関係になっていなかった。
だから俺は向日さんが苦手な怪談系の本を3冊贈って下剋上をした。
そして、中を見て激怒した向日さんと盛大に喧嘩をした。
「………。」
今思うと馬鹿らしい。
きっと向日さんは覚えてもいないだろう。
「さぁお前ら、存分に盛り上がれ!」
部長の一言で盛り上がる部員達。
飛び交う氷帝コールは誕生日会には関係ないんじゃないかと思って止まない。
騒がしい空気が苦手な俺は適当に空いた場所へ座る。
貸し切りの会場は結婚式の披露宴会場みたいだ。中庭にプールまで付いている。
会場は二階まであり、階段上のスペースには跡部さんがでかいソファに悠々と腰掛けている。
隣にはもう一つソファがあり、そこには向日さんが。
他の三年生レギュラーは向日さんを囲むようにして佇んでいる。
というか、各々がプレゼントを渡している。
ちやほやされている向日さんは機嫌が良さそうだ。
一年の頃から共に居た仲間とふざけ合って、笑い合って。
この人は今日、色んな人達に誕生を祝って貰えて最高に幸せなんだろうと感じる。
同じ正レギュラーでやってきたが、俺はこの人の一部しか知らない。そもそも俺の前ではあんな風に笑ったりしない。
どちらかと言えば、膨れた顔や拗ねた表情の方が多い。
「日吉!」
不意に目が合って、向日さんは思い切り俺の名前を叫んだ。
がやがやした中だったからそんなに目立たなかったが、俺にはしっかり届いた声。
階段まで駆け出すと得意のアクロバットで簡単に段差を飛び越えた。
忍足さんが「危ないでガックン!」と叫ぶが、華麗にスルー。少し良い気味だ。無意識に笑みが零れる。
向日さんは何事もなかったかのように着地すると、俺がいる所まで駆け足でやって来た。
「どうしたんですか?せっかくちやほやされてるのに」
「どうしたって…お前、電話した後からずっと会ってなかったじゃねーかよ!」
「そういえば、そうでしたね」
ほらまたこの表情だ。
何処か煮え切らないような不満足な顔をして、俺に何を求めているのかさっぱりわからない。
「…言おうと思ってたんだよ、0時きっちりに祝ってくれてありがとなって」
「?」
「お前あんなことするタイプじゃねぇだろ?侑士じゃあるまいし…でも、ちゃんと祝ってくれたじゃん」
一瞬なんの事かわからなかった。
この人が自分に何を伝えようとしているのか。
でもはっきりわかった。
日付ちょうどのお祝いは嬉しかったらしい。
正直言うと、忍足さんがやらかしそうだと思って先手を打つ為というのが一番の理由だった。
「ありがとな、日吉!嬉しかったぜ!」
それでも、たったそれだけでこんなに喜んでくれたなら悪い気はしない。少なくとも忍足さんには下剋上が出来たはず。
悪く捉えると、向日さんから見た俺は想像以上に薄情って事だけだ。
「ま、言いたかったのはそれだけ!じゃあ…」
「待ってください、」
またなと言う前に腕を掴んで引き留める。
すかさず立ち上がるとポケットにしまったままだったプレゼントを取りだし、押し付けるように渡した。
「え…これ…」
「プレゼントです。用意してないと思ったんですか?」
捻ねくれた言い方になるのはいつもの事だ。
普段なら食って掛かる向日さんのキョトンとした表情が一気に赤くなっていく。
それが俺にまで移って、顔に熱が集中していくのがわかった。
それでも今、伝えないと。一生言えない気がする。
「…誕生日、おめでとうございます」
「!」
真っ直ぐ見られず、顔を背けてボソリと呟くような言葉だった。
でも確かに向日さんには届いて、瞬時に体に衝撃と重みが加わる。
正面から抱きつかれた。倒れなかった俺は大人だと思う。
「お前さー、もう…マジ好き!すげえ好き!惚れ直した!くそくそ、日吉のくせにっ」
「…ああそうですか。とりあえず、離れてください」
「嫌だよ、ばーか。今日くらい年上の言うこと聞け」
「………」
タチが悪い年上だと心の中で呟く。
ここは会場で、他の部員もいて、なにより二階のスペースから跡部さんたちがじっくりと見ている。
涙する忍足さんの表情は傑作モノだ。…今はそれ所じゃない。
俺がモタモタしている隙に、跡部さんが片手を高く上げ指を鳴らした。
ざわついた会場に響くパチーン。
一体どんな指をしているんだ、何でそんなに響くんだ、マイクでも仕込んでいるのかと疑問が沸く。
その瞬間、聞きなれた氷帝コール。
たまに「日吉」やら「向日」と言ったりしている。
これは跡部さんなりの祝福のつもりか。
………部長、一体なんの祝福ですか。
「俺、お前に祝って貰うのすっげえ楽しみにしてたんだぜ?去年みたいに怪談本だったらどうしようかと思ったけどな」
腕の中に飛び越んだままの向日さんは満足げに笑っている。
聞き慣れた氷帝コールはもはやBGMらしい。そして去年の出来事をしっかり覚えていたみたいだ。
人の目なんかどうでもいいと吹っ切った俺は、背中に腕を回してその体を抱き込むようにした。
「なら、今日はずっと祝いましょうか?」
さりげなく髪に唇を寄せると心臓の音が強く鳴った気がした。相変わらずな反応に悪い気はしない。
イタズラな言葉に顔を上げた向日さんは、俺よりもイタズラな表情を浮かべて口の前で人差し指を立てる。
そして、わざと小声で呟いた。
“このあと抜けようぜ。みんなには内緒で、な?”
2つ返事で頷くと、満足げな笑みが返ってきた。
HAPPY BIRTHDAY GAKUTO!
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