!! HAPPY BIRTHDAY !!

□Feelings Change.
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早いか遅いか問えば、もちろん早い方が好きで。
急ぐか急がないかと聞かれるならば、もちろん急ぐ方を選ぶ。

じっとり流れる時間はなんとなく苦手だ。
どちらかと言えば性急な性格をしている俺。プライベートではゆったりとした時間の流れを好む跡部とは何かと正反対だ。向かいに座る跡部は窓の外に広がる世界をただじっと見つめている。
最高のプレゼント発言に何も言えなくなった俺、これじゃあまんまと釣られた魚と同じだ。

「なかなか良い景色じゃねーの」
「…そうだな」

俺はこの時間の流れが物凄く気まずかった。
今日は一日中、終わりまでテンション高く楽しむ予定だった。せっかくの誕生日なのに誕生日にまでしんみりするのは勿体ないじゃん?
でもな、きっと跡部は俺が最近大人しい事に気付いてたんだ。決して口に出して聞くような真似はしなかったけど、跡部は跡部なりに気にしてくれてたんだと思う。
じゃなきゃ、こんなベタな我が儘に付き合ってくれたりしねーよな。

「また考え事か?」
「別に。ただ…なんつーか、」
「なんだ、ハッキリ言ってみろ」

頬杖をついてこちらを窺う跡部の表情は相変わらず偉そうで。
そのままの姿勢で続きを促す。
今居る地点はちょうど真上かな、街の明かりが暗くなった空に映えて、こんなに高い位置にいる俺らの所までその光は届いた。
だから嫌だったんだ、この乗り物は。
逃げ道がないこの空間は徐々に俺の内面を晒していく。

「俺、ずっと一緒だと思ってたんだよ」
「誰と」
「跡…いや、テニス部みんな。青学の試合見てたらよ、俺達の最後はあの時だったんだなと思って。そう思ったら…すげー切なくなった訳。自分でもおかしいと思うけどさ」
「…ああ」
「もう終わったんだよな、俺らの三年間は」


終わった。

此処で肯定されれば、それはそれで納得が出来る。自分で口にしても心の中ではまだ納得出来ないでいるから、跡部が肯定した所で本当は何も変わらないかも知れないけど。でも少しは変われる気がする。

俺の三年間は、テニスがすべてを占めてるってくらいテニスだけだったから。別に今すぐ卒業って訳でもねぇのに、すぐバラバラになるなんてことはないのに、わかっていても胸に穴が空いて変な感覚が抜けてくれない。

「…馬鹿が。誰が終わりだと言った」

しかし返ってきた言葉は予想を裏切る言葉で、呆気に取られる俺の前で跡部は盛大にため息をついた。

「確かに中学でのテニスは此処までかも知れねぇ。だが俺達まで終わりにしてどうする、それは少し違うんじゃねーのか?」

「けどよ…」

「俺達はまだ終わっていない。勝手に不安になって泣き言言ってんじゃねーよ」

「いてっ」

おまけにびしっと額にデコピンをくらう。
あまりにも酷い不意打ちにキッと睨みつければ、跡部は満足げに笑っていた。てっきり不機嫌オーラを晒して怒っているかと思ったのに拍子抜け。

なんだよ跡部、いきなり意地悪になりやがった癖にめちゃくちゃ優しい表情しやがって。

「そういやお前、今日のこれがプレゼントだと思ったら大間違いだぜ」

「は?」

「言っただろ?最高のプレゼントをくれてやるって」

額を摩りながら跡部の言葉の意味を理解しようとする。

…さっぱりわからねえ。

話し込んでいる内に空の位置は低くなっていた。いや、正確には俺達の乗ってる観覧車が下降し始めてるからなんだけどな。
お陰で下の様子も見やすくなってくる。
跡部がふいに窓の下を指差す。
つられるまま視線を向ければ、遊園地のイルミネーションに照らされ、見慣れた人影が観覧車のすぐ下にずらりと並んでいる。

「え…」

「全員いるだろ、どうやら間に合ったみてえだな」

高い所にいる自分の目からでもはっきりとわかる、その人影の正体。
侑士、宍戸、ジロー、滝、日吉、鳳、樺地だ。しかも…

「た、太郎まで…」
「名前呼びはやめろ、監督と呼べ」

それに、何故か顧問の榊まで。
こちらを見上げているのは制服姿で佇むレギュラーメンバーだった。全員揃うのは久しぶり、顧問を除けば全国大会の決勝の時振りじゃねーか?

「…なんであいつらが此処にいるんだよ?」

「誕生日プレゼントだ」

「はぁ!?」

共にやってきたメンバーを誕生日プレゼントと言い切った跡部の方へ振り返れば、さして重要でもなさそうにさらりと告げられた。

「言っただろ、なんでも叶えてやると。…もう一度言うが、てめぇは分かりやす過ぎなんだ」

そこからはもう自慢の自信たっぷりな笑みを向けられて、俺の自慢の髪をくしゃくしゃに掻き乱される始末。
「やめろよ」「やめねぇ」と暫し攻防を繰り返す。
やがてくしゃくしゃにする事に飽きた跡部は今度は乱れた俺の髪を手直ししながら続ける。
…俺はどっかの犬か何かか!?


「時間までは戻せねぇが、これから先の時間を共に過ごす事くらい俺様には容易いことだ」

あまり俺様を見くびるんじゃねぇ、とついでにどや顔で吐き捨てられた。
俺はと言えば状況に付いていけなくて少しポカーンとしていて、自信満々な跡部に何一つ言い返す事さえ出来なかった。



俺が欲しいモノはみんなと過ごした時間だった。
別にテニスがなくても、どっかで何かしら繋がってるんだと思ってたけどよ。それを確かめる術がなかったから、少し不安だった訳。
なんでこんな些細な事で不安になったのかわかんねーけど、言い換えればそれくらいこいつらが大切だってことだろ?

今目の前にいるこの男はどれだけ俺の事がわかるのか。もしかしたら俺以上に俺の事をわかっているのかも知れない。
いつもいつも俺の考えの更に上を行く跡部。
到底敵いそうもない相手。
そんな奴が隣に居る今、これからもそうであることを願う俺がいる。
だけど、ずっとなんてモンはない。
結局は矛盾を感じて一人で訳が分からなくなってただけだった。


そうこうしている間に観覧車は地上に着いて、俺達はゆっくり退場口から出る。目の前には懐かしい顔が揃っていた。早く来いと言わんばかりにこちらの様子を窺っている。
…構えられると何となく行きにくいぜ。


「オラ、とっとと受け取りに行きやがれ」


見兼ねた跡部は俺の背中を押し出す。
最後までプレゼント扱い。跡部らしくて笑えた俺は一歩、前に踏み出した。
すると、途端に痺れを切らしたジローが思い切り飛びついて来た。

「岳人おめでとうだC〜!俺と同じ15歳!!」
「おいジロー!いきなり飛び付くなよ!」

覚醒したジローを目の当たりにしたのは久しぶりで、落ち着かせようとするも無理だった。そういや俺とジローが今一番年上なんだっけ、そう思うと何故か気味が悪くなってきた。俺らよりも明らかに老けている奴らが部内に三人程いる。

「俺ちゃんと起きてたC〜♪」
「わかった、わかったってジロー。ありがとな!」

おめでとうおめでとうと馬鹿みたいに連呼する幼なじみの背中を軽く叩いて応えた。すると、俺とジローの頭が何者かによって小突かれる。

「ったく、うるせぇぞジロー!岳人、お前も学校サボって何やってんだよ」

「宍戸!」
「はは、痛いC〜…」

「朝一で祝おうと思っとったのに主役が居らんのやからなぁ…びっくりしたで。ま、、おめでとさん」

「侑士も!」

やれやれとダブルスパートナーも駆け寄ってきた。

「岳人、デートは楽しめた?跡部に変なことされてない?」
「滝!…って、変な事ってなんだよ…!」

「…まったく、突然呼び出すんですから。本当に傍迷惑な誕生日ですね」
「日吉、そんな言い方は駄目だよ!向日さん、誕生日おめでとうございます」

「日吉と鳳も…お前らわざわざ来てくれたのか?今日平日だし部活あっただろ、悪いな」

「…別に」
「いえ、気にしないでください!」

素直じゃない後輩と、素直過ぎる後輩は交互に正反対な言葉を言う。こいつらは相変わらずだなと岳人は苦笑した。

「た…いや、監督!監督までありがとうございます」
「気にするな。向日、おめでとう」

危ねぇ、本人を前にしてマジで太郎って言いそうになっちまった。樺地を労る跡部と目が合うと声には出さずに「馬鹿が」と言われた。くそ、ムカつく…!

ムカつくけど、正直みんなが集まっておめでとうと言われるのは嬉しい。
しかしそれですべてが終わるはずもなく、指パッチンの音が鳴るとみんな一斉に跡部の方へ振り向いた。

こういう展開も懐かしいぜ。

指パッチンにやたら反応するようになったのは確実に跡部のせいだ。みんな体が勝手に反応してしまう。これならいつかホストになっても困らないだろうな、絶対ならないけど。




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