お題 O×G

□お、お前、近すぎ!
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※「ばか、そんなんじゃねーよ!」
 …の、続きみたいな感覚でどうぞ(笑)














最近、俺のパートナーが極度の照れ屋だと判明した。

不意に指が触れた時、肩を抱き寄せた時。
そないな時は決まって顔を赤らめ、やけど憎まれ口を叩いては誤魔化そうとする。

些細なことで照れる仕草もかわええよな?
まるでラブロマンスに出てくる乙女みたいや、俺の前でしか出えへんけどな。
ほんまはかわええでと言いたいんやけど、岳人の機嫌が悪うなるから口には出さん。触れんくなるんも勘弁やからな。


「侑士、うぜえ」
「つれないなぁ…そないに言わんと構ってや」
「やだ。離れろ」


二つ返事で拒否された。
別にいつもの事やから気にせんけどな。

昼休みにいつもの屋上で岳人と昼食タイムや。
俺ん中では一日の中で一番最初に岳人と長く居られる時間、めっちゃ貴重やで。
朝の通学も、授業の合間の休み時間も、長く居られるわけやないから。余りにも短過ぎる時間では岳人を十分に実感出来んのや。
せやから昼休みはめっちゃ貴重なんや。
大事な事やから二回言わしてもろたで。
俺は後ろから岳人を包むように抱きしめとる。肩に顎を乗せる姿は自分でも笑ってまうけどな。せやかて、岳人の事が恋しいんやさかい仕方ないやろ。

こういった事にはまだ慣れていない岳人は相変わらず緊張しとるらしい。体は強張るわ、表情も堅くなるわ…まぁ僅かに顔は赤いけどな。嫌がってないのはわかる、ただどうしたもんか…まるで冷凍マグロみたいや。
微動だにせん。やから、先へと手が出せん状態や。

岳人が慣れるまで待つと決めた俺やけど、いつ理性が吹っ飛ぶかわからへん。岳人は己に対してはとことん鈍感な子やから色々と心配やし、本人に自覚がなくても俺を誘うには充分な色気を常に持っとる。

…困った。

埋めていた肩から顔を上げ、流れる雲の動きへと視線を移す。少し体を離して距離を開けば、何事かと岳人の体が忍足の方に動いた。

「侑士?」

「堪忍、ちょお雲に見とれてたわ」


…本当に困った。

口ではうるさいとか離れろやの散々な事を言う癖、少し体を離したりすれば「離すな」と言わんばかりに名前を呼ばれる。
ホンマにどないしたろか。
こんなん俺、ただのおんぶオバケやないかと落胆する。せやけどこれは照れ屋な岳人からすれば大分進歩したことやねん。
ここは我慢や、我慢。

でもせっかくやし、このまま次のステップに進めやせんか。
忍足は密かに目論み始めた。

「なぁ岳人、ちょおこっち向いてや」
「?…なんだよ」

後ろにいた忍足が抱きしめる腕を解くと岳人が振り向く。だが、体は正面を向いたまま。手を引いて体ごと向かい合わせると、今度は正面から包むように抱きしめた。

「ゆ、侑士…なに」

「ん?いつもと同じやったらいつまで経っても岳人が慣れへんやろ、たまには体勢も変えないかんと思うてな」

とりあえず適当な言葉で繕い、疑われないように背中をさする。こういう、小さい子供をあやすような行動は岳人にはよく効くんやで。

「ふーん…」
「この前教えたやろ?背中に腕回し。顔は肩の位置がええかな、自分で好きな所探してみてや」
「え?あ、おう…!」

意外にチャレンジ精神が旺盛な岳人は男らしく頷いた。背中に腕を回し、控えめにきゅっと抱き着いてくる。もっと強くてええのになぁ。顔は俺の胸に埋め、さりげなく耳を立てとる。どうやら岳人は俺の心音を聞くと安心するらしいな。今はまだ正常やからええけど、疚しい気持ちがたっぷりの時は聞かせられへんなと心から思ってしもた。バクバクな心音なんてカッコ悪いやろ?

「なぁ、侑士」
「ん?」

聞き返しながら綺麗に整った髪を梳く。
岳人の髪はいつもサラサラしとって触れてるだけで気持ちいい。さりげなく髪に唇を寄せ、募る欲求を少しずつ減らしていく。
理性を失っては今までの苦労が水の泡や。

「…俺、前からする方が好きかも」
「………。」

その言葉を変な方向に捕らえた俺はよっぽどやと思う。くすぐったそうにしながらもしっかりと抱き着く姿に笑みが零れる。
もっと近付きたい、本能でそう思った。

「岳人、」
「わ…っ」

いきなりだった。
急過ぎて岳人には何が何だかわからなかったが、気付けば自分が忍足の膝の上に乗るような体勢になっていた。先程まで忍足を見上げていた視線が、今度は見下ろす形になる。
いつの間にこんな事になったのか。
忍足の腕は岳人の腰に回り、岳人の体を支えるようにがっちり固定されている。転倒などの心配はまずない。

「ゆーし、お前!」
「ビックリしたん?堪忍な、岳人が可愛すぎてもっと近付きたかってん」
「っ……」
「ええやんか、岳人だけやで?」
「そういう問題じゃ…」

さらりと恥ずかしい言葉を言う忍足はこつんと額同士をくっつけ楽しそうに笑う。すかさず赤く染まった頬に手を添え、さりげなく顔を引き寄せ距離を無くしていく。

「自分、茹でタコみたいや」
「っ…」

頬を撫でると岳人は反動でぎゅっと目を閉じた。
思わぬチャンス到来に表情がにやける。
多分、驚いた岳人になんやかんや言われるだろうと思いながら唇を重ねようと顔を傾ける。

「岳人…」
「!」

忍足が目を閉じた瞬間、最悪のタイミングで岳人の閉じられていた瞳が開いた。
目の前に飛び込むは忍足のアップ。
瞬時に手が出てしまった。

―ドカッ

「痛…なにするん」

もう少しやったのになぁ…と心の中で残念がる忍足は叩かれた頭を摩った。

「くそくそ、…」

岳人の顔はこれ以上赤くなれないほど赤くなっとって、そうさせたのは自分だがその俺すらも心配になる程やった。

「岳人?」

ひょいっと下から顔を覗き込めば、真っ赤な顔した岳人が手で口元を隠した。
…もしかしなくともバレとった?














「お、お前、近すぎ!」

「せやかて岳人が…」

「もう暫く近寄んな!」
(危ねー…今のはやばかった、マジで)

「えー…」
(……もう少しやったのに)






どうやら、照れ屋な恋人とのファーストキスはまだまだ先になりそうや。



残念がりながらも、忍足のその表情は楽しそうだった。




Fin

 

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