お題 A×G

□見てただろ、俺のこと
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季節は巡る。
だが、必ずしも去年と同じ季節が巡るという訳ではない。


この景色を迎えるのは三度目だ。

まるで今の時期を知らしめるように、校内に季節の色を沿える桜の大木たち。
花はどれも満開だ。
そういやテニスの練習中に花びらが舞ってきたりしていたな…と頭の片隅にある記憶を引き出し、跡部は今日も真面目に授業を受けていた。王様たるもの、授業を怠るような真似は絶対にしない。たとえ授業が退屈でも、だ。

幼少期を海外で過ごしていた者としては退屈窮まりない英語の授業。中学三年になったという事もあり、内容もそれなりに難解になってきた。…が、教科書に記されているたまに出る不可解な英文には未だに理解が出来ないでいる。

今は4時限目。この後は昼休みだ。
特に腹が減っているわけではないが、あまりにも退屈過ぎてどうでもいい事が頭を駆け巡る。
途中で英語教師に何かと当てられたりしたが、言語能力に長けている跡部に不可能な事などない。涼しい顔で答える跡部に女子生徒は黄色い声援を送り、英語教師までもが跡部の本格的な発音に感嘆した。
そんな声が上がっても気にしない所が、また王様らしい。



ふとグラウンドに目をやれば体育の授業。
先程からワイワイと歓声が上がったり上がらなかったりと騒がしい。
こちらとの温度感にやや傍迷惑な視線を寄越しつつ、今から行われるであろうドッチボールの試合を少し離れた教室から観戦する。先程もやっていたのを見たが、特に見続けるものでもなかったのでスルーしていた。
だが今は違う。

どうやら忍足のクラスと岳人のクラスで合同らしい、二人の姿を見つけた瞬間から跡部の目の色が変わる。

クラス対抗で張り合っているようだ。
こういうスポーツ絡みの試合時は、岳人はやたら張り切る。今だってクラスメイト全員に呼びかけ、円陣まで組んでいる始末だ。

(オイオイ…今は授業だろ。もっと冷静にやれねぇのか、アーン?)

それに対して忍足の方はクラスメイトの一致団結はあるものの、忍足自身は気が進まないような雰囲気だ。テニスに関してはいざとなると熱くもなれる男は、普段はこんな感じでポーカーフェイスを使い済ましている。

(…テメェは逆に冷静過ぎだぜ)

試合が始まると岳人は先陣切って相手の選手を次々とアウトにしていく。相手側から狙われても得意のアクロバットでかわす。外野に回った選手やら応援側にいる女共は、岳人の無駄に派手なパフォーマンスにギャーギャー喚いている。

(うるせぇぞ雌猫共、)

無意識に心の中で毒吐いたのは、跡部だけの秘密だ。


それなりに時間も経ち、互いのクラスの人数がいい具合に減ってきた。
それまで目立った行動をしなかった忍足だったが、敗北の文字を背負うのは嫌なのか徐々に熱くなってきやがった。
…どうでもいいが、ドッチボールでひぐま落としを使うのはやめろ。

いつの間にか授業そっちのけでグラウンドに夢中になる跡部だったが、そろそろ頃合いだろうと教室の時計を見る。授業終了のカウントダウンも近い。

そして、グラウンドで尚も内野で活躍中の岳人へ再び目を移す。
その瞬間、相手側のボールが岳人の足元に当たる。
逃げ切れずそのままアウトになった。
岳人は悔しがりながらもその場に腰を落とすと苦笑した。


(バーカ、お前はもうスタミナ不足だ)


どうやら岳人のスタミナ切れのタイミングを測っていたようだ。

普段一緒にいる分、同じチームという事もあり相手の状態は予想できる。
短期決戦型の岳人が初っ端から飛ばせば体力は一気に消耗する、延長戦なんて越えられるわけがない。



そこでタイミングよく授業終了のチャイムも鳴り、跡部の視線はグラウンドから離れた。
英語教師の呼びかけで授業が終わると昼休みが始まる。
各々弁当やら購買やら食堂へと忙しなく動き出す。

手早く教科書を終うと、必要最低限の物をポケットにしまいベランダへ出た。
あと3分もしない内に樺地がやって来るだろう。
グラウンドには先程のクラスの奴らが引き返している所だった。


「……。」

何気なく眺めていると見慣れた二人組と目が合う。
まだクラスに帰っていなかったのかと溜め息をついた。

「なんやねん、高い所からガン見かいな」
「あとべ!」

一階と三階じゃそんなに変わらないと思うが。

「…どうした?」

とりあえず忍足を無視し、何か言いたげにこちらを指差す岳人へ問う。
忍足の肩を借りている様子からしてかなりの体力を消耗したと見れる。
見ていた、という事は敢えて伝えない。

「俺、またスタミナ不足になったな」

「アーン?何の話だ」

「なにって…だって跡部、」
















(見てただろ、俺のこと)




(………何の話だ。)

(あんなに見られちゃバレバレなんだよ)
(せやなぁ、バレバレやったなぁ?)
(試合中もだし、練習中も。いつも見てるぜ)
(…ガックン、それストーカーちゃうの?)
(あー、かもな。俺すげえ愛されてるからさ!)
(そらご愁傷様な事で)
(なんでだよ!)


(オイ…お前ら黙れ、うるせえぞ)

 

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