O×G

□甘い言葉で慰めて、
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最近、自分が嫉妬深くて心狭い人間だと知った。

例えば侑士が他の女と話していたり、相手が男や先生相手でも気になるようになった。二人でいても学校という場所にいれば好意を寄せる視線を浴びることもある。侑士だけじゃなく、それは俺にもあるんだけど(侑士よりはモテないけどな!)最近は本当にそういうものも堪えられない程に、俺は侑士にハマってる。つーか好き過ぎてオカシイ。軽く狂ってるよな。
別に侑士が俺から離れるとか、信じてないって訳じゃない。だって侑士は俺にゾッコンだし、他人が聞いたらドン引きする程の依存っぷりをこれまで幾度となく披露してきた。俺が居なくなったら間違いなく侑士は壊れるってくらい、あいつは俺の事が大好きなんだぜ!まぁそんな話はいいんだけど。問題は俺、普通だと思っていたらどんどん狭い人間になっていた。こういうのすげー嫌だ。でも侑士は「岳人に縛られんならええよ、嬉しいやん」なんて馬鹿みたいな事をさらりと言ってのけるもんだから、俺の束縛度と依存症は日々悪化するばかりだ。くそくそ、全部侑士のせいだぜ!

そんな俺に嫌なニュースが舞い込んだ。
昼休みに入る前に同じクラスの女子から恋愛相談をされた。そいつは俺より若干身長が低くて、どっかのお嬢様みたいな雰囲気を纏った内気なタイプの奴。あまり深くまで関わったことはないけど仲は良い。相談くらいいいぜ!なんて軽い気持ちで引き受けた俺に、そいつは俺と侑士が仲良いのを見込んでか侑士との仲を取り持って欲しいと頼んできた。なんでも1年の頃からずっと憧れていたらしい。そんな素振りは一度も見たことがなかった俺は面食らう。瞬間的に目の色が変わった。侑士はもう俺のだ、どうすっかな。仲を取り持つなんて御免だしそんなことする意味もない、つーか嫌だ。だって侑士は俺のだから。返答に困る俺に、そいつは小首を傾げながら「向日くん?」と呼んだ。…くそ、めちゃくちゃ可愛いぜ。とりあえずその場限りで軽く承諾した振りをする。何も知らないクラスメイトは僅かに頬を赤く染めて嬉しそうに、綺麗に可愛く笑った。とてもじゃないが侑士の前で見せたくない表情だ。女の心からの笑顔にはいくら俺でも勝てる気はしないから。


放課後、黒々しい感情を抱えたままな俺はぼんやりと空を仰ぐことしかしていない。あれからの授業は全部サボった。同じ教室にはさっきのクラスメイトがいて、困ったことに席は斜め前。嫌でも視界に入る。目が合った際にはにこりと微笑まれる始末。「よろしくね、向日くん」と頭の中に幻聴が響く。俺の中には黒々しい感情がぐるぐると渦巻いたまま。そんな訳で消化出来ない感情を抱えて屋上に逃げ込んできた。そういや引っ切り無しに携帯が鳴っていたなと思い、ポケットから何時間振りに携帯を取り出す。同じクラスのダチからだったり、でもその殆どが侑士からだった。着歴とメールの多さに苦笑するもその一つ一つが俺を嬉しくさせる。徐々に焦りの色を出す文面を指でなぞりながら辿っていくと黒々しい感情が消えていくようで、早く見ればよかったと後悔した矢先、

「此処におったんか」
「!」

携帯を見てニヤつく俺の視界に侑士が現れる。微かに息を切らして手には俺の分のカバンまで。痺れを切らして探しに来てくれたのかな。

「メールの返事は来んし電話しても留守電。教室にも居らんと……自分、何してんねん」

おまけにちょっとキレてる。いっそキレたいのは俺の方だと思いながらも怒る侑士もいいなーと、呑気な俺は寝転がったままで黙って手を伸ばす。突っ立ったままの侑士はため息を零しながらも俺の手を取って起こしてくれた。その反動で侑士の胸の中に飛び込むと首に腕を回す。ぎゅっと抱き着いた。俺からこんなことをすんのは珍しいから、きっと侑士は困惑する。現に微かに鼓動が跳ねる音がした。図星。

「岳…」
「嫌ならやめる」
「嫌なわけないやろ。…せやけど急にどないしたん」
「別に」
「冷たいなぁ…」
「うるせーよ」

うるさい、もう一度呟いて顔を埋めた。
侑士は「我が儘な子や」と本日二度目のため息を零して俺の髪を撫でた。こういう子供扱いも普段の俺なら怒るけど、今日は勘弁してやる。すげえ悔しいけど、こうされるのは実は物凄く安心するから。それを知ってか知らずか、侑士は俺を甘やかしながら「岳人、好きやで」と繰り返した。
俺が今欲しい言葉をピンポイントでくれる。何も言ってないのに侑士には全部見透かされているようで悔しい。でも根っこにあるのは、素直じゃない俺をちゃんと見てくれていて、尚且つ理解してくれてる侑士を信頼しているわけで。それがすげえ嬉しいという気持ち。

「…ムカつく」
「なんでやねん」
「お前、近い内うちのクラスの女子に告られるぜ」
「そうなんや?ま、断るけどな」
「なんで?」
「アホ、岳人が居るからに決まっとるやろ。なんではこっちの台詞やで?」
「そうだけど…」
「嫉妬しとったん?」
「……少しな」
「ほな、安心させたるわ」
「へ?」
「好きや」
「…うん」
「愛しとる。俺にはこれからも岳人だけやで」
「っ…」
「我慢せんとちゃんと言いや。今よりもっと我が儘で欲張りな岳人になってもええで、嫌いになったりせん。俺が岳人の全部を受け止めたる、俺に任しとき」
「………」

物凄い口説き文句を並べたてる侑士は酷く優しい表情をしていて、きっと今の俺は物凄く泣きそうな顔をしているに違いないと確信した。額に、目尻に、そして唇に侑士の唇が当てられ暖かい気持ちが伝わる。これも普段なら恥ずかし過ぎて絶叫出来るレベル、今はただ安心する行為だ。好きだ、俺だって侑士に負けないくらい侑士の事を愛してる。だから些細な事で不安にもなるし、どんだけ強がっても脆くなる時もある。こういう弱い所は見せたくない。でも本当は、目に見えない恐怖を払拭して欲しくて仕方なかったんだ。慰めて欲しくて仕方なかった。

「侑士」
「ん、」

ちゅっと自分からも唇を押し当ててやった。
これも普段は(以下略)…だけど、今日は特別。少し自分に素直になってベタベタに甘えるのもいいかな。今の言葉もあったせいか、侑士が欲しくて堪らなくなった。

「もっと慰めろ」
「単刀直入やなぁ」
「今日は好きにしていいぜ。…なぁ侑士、」
「岳、もう黙っとき」

そこからはもう、何も言うことが出来なくなった。そのまま場所も忘れて欲望のままにただただ求めた。最後まで言わなくてもやっぱり侑士には全部伝わっていて、俺はまた侑士という存在にハマっていった。













(甘い言葉で慰めて、)




依存してるのは俺の方かも知れない。
ああきっとそうだ、もう離れられない。




End

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