O×G
□ただ、君を想う。
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久しぶりに岳人と映画を見る。
少し前にテレビでも話題になっていた純愛ラブストーリーものや。
映画館で楽しみたかった所やけど、生憎公開していた時はテニスの試合が絡んどって映画を観に行く暇なんかなかってん。
せやからレンタルが始まるまで待っとった訳や。
新作なだけにレンタルの競争率も高かったんやけど、ようやくGET出来た。
喜ぶ俺とは対照的に、岳は「もっとアクションっぽいのが良かったぜ」なんて言うてたけど。「たまには俺の趣味に付き合ってや」と下手に出れば「…しょうがねーな」と渋々納得してくれた。
ほんまに、こういう所が可愛いくてしゃあないわ。
俺の部屋に連れていき、ベッドを背凭れ代わりにすると視線はテレビへ。
少しでも映画館で見る感覚にしとうて電気は消す。
テレビの明るさだけが頼りや。
岳人には「相変わらずベタな奴」と笑われた。
やって、いつものことやろ?雰囲気作りなら任しとき、そう答えれば「侑士は変態だからな」と変な納得をされた。
なんでそこで変態なん?…まあ、ええわ。
忍足の隣には岳人が。
空いた手は互いに絡め、岳人は忍足の肩に自分の頭を寄せる。
映画館でよく見る、典型的なカップル達の図だ。
このスタイルが自然というか落ち着くのか、このまま鑑賞会が始まる。
物語は二人の男女の純愛ストーリーだ。
互いに惹かれていることに気付くが、なかなか素直になることが出来ない主人公とヒロイン。
周りの人間関係で揉めながらも、最後はお互いに想いを打ち明けるというストーリーだ。
もちろんハッピーエンド。初々しいキスシーンなんかもある。
物語の途中で忍足に凭れる体重が強まる。
目線だけ向けると岳人はいつの間にか寝てしまっていた。
元々ラブストーリー等には興味がない岳人からすれば、この映画はさぞ退屈だろう。
忍足は予想でもしていたのか、小さく笑みを浮かべるとその視線を画面へと戻す。
静まり返る部屋には岳人の微かな寝息と、テレビから漏れる音声しか流れていない。
画面の中では主人公がヒロインに切なる想いを伝えている場面だった。その表情は不安・戸惑い・否定されることへの恐怖からかひきつっている。何処か泣きそうな表情とも取れる。何とも言えない緊張感が、見ている側にも伝わってくるようだ。
(なんや…このまま結ばれてハッピーエンドかいな)
しかし今まで数々のラブロマンス小説や映画を見てきた忍足は、心の中で小さく毒吐いた。
ありきたりな展開だと踏んだのだろう。
だがその感想は、次のセリフを聞いたことによって砕かれる。
『ただ、君を想っているだけで良かった』
「……、」
主人公の一言に忍足の目の色が変わる。
『……でも、見ているだけじゃ駄目だった。もう誤魔化せない』
続けられた言葉は主人公の苦悩を描いている。
告げることへの恐怖。一旦は諦めようとした心。
しかし、結局は諦め切れない自分の想いを。
主人公の告白シーンを見ていた忍足は、画面の中の主人公に昔の自分が重なる錯覚を起こし軽く目を伏せた。
(まるで…)
ゆっくり目を開けると、肩を借りたまますやすや眠る岳人をじっと見つめる。
(…こいつ、昔の俺みたいや。なぁ、岳人)