!! HAPPY BIRTHDAY !!
□For you
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最近の悩み事。
1ヶ月以上前からの話になる。俺よりも背の低い、あの人の誕生日アピールが酷い事だ。
氷帝学園テニス部コートでは今日も練習が行われていた。
全国大会も終わり、三年生は引退。
しかし何かと色濃いあの人達(特に部長)は、いつも通りと言わんばかりに毎日部活にやってくる。
レギュラーで残ったのは俺と凰だけだったが、未だに部活に顔を出す三年生には僅かな有り難さもあった。
(…なんたって下剋上が出来るからな)
素振りする部員、球拾いに勤しむ部員、個人練習をする部員、ひたすらタイムを計り続ける滝さん、一体何をしに来たのか…ベンチで居眠りする芥川さん、その横で物静かに本を読んでいる忍足さん。
あんたら一体何しに来たんですか?
隣のコートでは跡部さんが部員達に「王の心得」という謎の教えを説いている。樺地は相変わらず斜め後ろに構えている。
正直、意味がわからない光景だ。
テニスらしい事をなに一つやってはいない。
頭の片隅でうんざりしていると意識が戻される。
「おい日吉!俺の誕生日までっ、あと2日だなっ」
―パァン!
「そうですね。…向日さん、今は集中してください!」
―バシッ!
「だってよー」
「だって」じゃない。
俺は部長達よりも更に理解が出来ない人が隣にいることに気づいた。
それは隣でピョンピョン跳んでいる向日さんだ。
今はテニスの練習試合中。
相手は凰と宍戸さんのダブルス。
試合といっても「なんか跳びてぇ」「なんか打ちてぇ」と呟いた先輩二人に俺達が付き合っている形だ。
その試合中に、向日さんは全く関係ないことばかり言ってくる。
「唐揚げ食いたい」
「バンジージャンプしたい」
この後もずっと、ラリーの最中にこれが続いた。
…本当になんなんだこの人は。
テニス以外の事をしているあの人達よりは、幾らかマシだと思った俺が馬鹿だったかも知れない。
「なぁ日吉、おいってば!」
「…なんですか?」
部活後の帰り道。
俺は向日さんの苛立った声で振り返る。
少し後ろにいる向日さんは不機嫌だと言わんばかりの表情でこっちを睨む。
「お前、今日ずっとそっけないのな!」
誰のせいだと言ってやりたい。
だが口にした後が予想出来ている。言わない俺は大人だ。
「向日さん、もう大分離れてますけど帰らなくていいんですか?」
とりあえず聞かなかった振りでこちらの疑問を突いた。
俺の一言に向日さんの顔は気まずそうに歪む。
今歩いている道は俺の家の近く。
だが向日さんの家は正反対だ。いつもなら別れ道でそのまま終わるものの、今日は此処までついて来ている。
よっぽど誕生日アピールをしたいのかとも思ったが、理由はそれだけではない気もする。
「あー…なんつーか、その…」
「家まで送りますよ。…それならまだ居られるでしょ」
俺は気まずそうにする年上の先輩の傍まで戻る。
それだけ言って、向日さんの手を掴んだ。コロコロ変わる表情が面白い。
「ひよ…っ、手…!」
「いいんじゃないですか、暗いですし」
時刻は夜の7時過ぎ。
秋になりつつあるこの時期は、この時間帯だともう暗い。
何と言っても焦ってる割にはちゃんと繋ぎ返してくる所だ。
これだと自分からは離せそうにない。
「仕方ねえから繋いでやるよ!」
「…変な所で素直な癖に、こういう所は意地張るんですね」
「なんだとっ!?」
最近の言葉で「ツンデレ」とか呼ぶんだろう。
あれだけ恥ずかしがってた向日さんは、今は俺の方に寄り添いながら歩いている。
まったく気分がコロコロ変わる人だ。
いつものことだから驚きはしないけど。
「なぁ、明後日ちゃんと祝えよな!」
そして、結局はただの誕生日アピールだった。