!! HAPPY BIRTHDAY !!

□Feelings Change.
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そろそろ誕生日が近い、そんな頃。

「今年は何が欲しい?何でも言ってみろ、俺様が叶えてやる」

まるで「俺なら何でも叶えられる」と言わんばかりの自信満々の表情。
こういう言葉をさらっと言えるのがまた、跡部らしいというか。



俺が今、一番欲しいモノ。




……残念だけど。


俺が今一番叶えて欲しいことは、跡部にだって叶えられそうもない願い。

くだらないと言えばくだらないで終わる。
口に出せばなんでそんなものを、と馬鹿にされて呆れられるかも知れない。

それでも今の俺は、ただそれだけが欲しかった。
















全国大会が終わり、中学三年間続けた部活も正式に幕を閉じた。これからの俺達三年に残ったものは「受験」という二文字だけ。そして「卒業」というゴールに向かっている。もっとも、そのまま高等部に上がる奴が多いからそんなに切羽詰まった状況でもないけどな。
ただ、ずっと一緒に居た部員達と最近は顔を合わせることが少ない。個人でなら頻繁に会ったりするし、昼飯食ったりもするし、全く話さないわけじゃない。たまに部活に顔出して後輩指導だってしてるしよ。
でもよ、みんなで集まる事がまるっきり減ったんだ。部活帰りに跡部の奢りで飯食いに行くとか、怠いからってそのまま跡部の家にみんなで泊まったりとか。
跡部は生徒会絡みで忙しいし、他の皆も何かと都合が合わなくなって。

そういうことがぱったりと無くなった。

別にそういう事がしたいわけじゃねえけど、なんか変だろ?違和感っていうか。当たり前にやってたことが無くなって、俺達は本当に「引退」したんだと実感する。
過ぎた時間は戻らない。
そして俺は、気が付いた。
みんなはこれからそれぞれの道を歩いていくんだってことに。
ずっと同じ道を行けるはずがないのはわかってた。そもそもずっとなんてないし。永遠って言葉を馬鹿みたいに信じているわけでもない。

ただ最近の俺は、なんとなくセンチメンタルな気分に陥っては考え事をするようになった。
なんつーの?こういうのって。大人になっていくって言ったら近いのかも。










「あー」

眩しいくらい照り付ける太陽。
じっとりした暑さがないのは夏が終わり秋になっている証拠。
今日は絶好のお出かけ日和というやつだ。俺は、空に向かって思い切り両手を上げる。

「気持ち良いー…な、跡部!」

その光を全身に受け、連れの男の方へ振り返るとさして興味なさげな表情が視界に入った。

「そうかよ」

跡部はサングラスをしたままでも何処か眩しそうな仕草をし、空を仰ぐ。
強い日差しの下はあまり好きではないようだ。試合をしている時以外は。

今日は俺の誕生日。
この前、跡部から何が欲しいか聞かれた俺はしつこく聞き出そうとする跡部に「とりあえず遊園地に行きたい」と答えた。
理由はあるけど、なんとなく言う気になれずただそれだけ告げた。

その時の跡部は面食らったような表情をしていたなー…と、しみじみ思い出す。




「遊園地だと?…ミカエル、今すぐ都内の遊園地の一覧を出してくれ」

「かしこまりました」

指を鳴らして使用人を呼ぶなりとんでもない事を言い出す跡部は相変わらずだった。

「あー待て待て、お前何する気だよ。じーさん…じゃなくて、何だっけ?まあいいや、とにかくかしこまらなくていいぜ!無し、今の無し!俺の言い方が悪過ぎた」

「アーン?…遊園地が欲しいんだろうが」

「なんでそうなるんだよ」

こいつは俺が遊園地を欲しがっていると解釈したらしい。
そのぶっ飛んだセレブ思考に脱帽する。
叶えようとするその姿勢にも、だ。
すると、従順な執事を慌てて止める俺に強い視線が刺さった。この嫌な感じはもしかして…

「ハッ…分かったぜ、貸し切りか?」

「だから…違えよバカ!お前と話してると食い違い過ぎてマジ面倒くせー」

「俺様が気を遣ってやってるのに酷い言われようじゃねーの、おかっぱ」

「てんめぇ…今おかっぱを馬鹿にしただろ!」

「おかっぱはおかっぱだ」

「くそくそ、こいつ超ムカつく!」

何が「ハッ…」だ、期待して損したぜ。
指の隙間からこちらを覗く表情が苦虫を噛んだように歪むも、すぐにいつものムカつく跡部に戻った。弱点をサーチするインサイトも台なしだ。つーか、テニス以外で使ってんじゃねーよ。

ほんと、跡部は変な所でアホな奴だと思う。





「……だよな、やっぱアホなんだ」

「何か言ったか?」

「なんでもねえよっ!」

思い出し苦笑するも結局は嬉しい俺に、その張本人からツッコミが入る。グチグチうるさい奴だとでも言いたそうな雰囲気だったから、なんでもないとかわして跡部の腕を半ば無理矢理引っ張り入場ゲートをくぐった。

平日なせいか人の数は疎ら。
家族連れがやっぱり多くて、男二人で来ている俺らは客観的に見るとかなりサムい。わかっていたけど、さりげない視線が気になる。それは隣を歩く跡部の派手さとオーラのせいでもあるんだけどな。幸い、学校サボって遊園地に来ている中学生にはとてもじゃないが見えない。

今日は本当なら学校がある。
それを敢えてサボリ、此処にやってきた。

生徒会長であり成績優秀な跡部が学校をサボるのに納得するとは思わなかったけど、駄目元で言えば「誕生日くらい構わねぇ」とあっさり了承してくれた。

(…珍し過ぎて気持ち悪りィ)

普段からそんくらい優しかったらいいのに、と何度思ったか。本当に付き合ってんのか?と思うくらい、俺らは普段から素っ気ない。単に、お互いに不器用なだけかも知れないけど。尤も俺も少しは素直になればいいんだけどな。

とりあえず今は誕生日プレゼントを堪能しようと、遊園地のマップを片手に辺りを見渡す。緩やかな乗り物よりも絶叫系の方が絶対楽しい。バンジーは5回くらいやりたい。いや、やるぜ!普段から何かと主導権を握る跡部だから、きっと今日も振り回されそうだ。それはちょっと勘弁したい、そんな事を思いながら跡部の方をちらりと見ると、バッチリ目が合っちまった。

「好きなだけ跳んできやがれ、今日だけは付き合ってやる」
「……勝手に読むなし」
「テメェは分かりやすいんだよ。ほら、行かねぇのか?」
「行く!」

そうやって、差し出された手を取って。
ナチュラルに手を繋げたのは人の少なさと滅多にこんな事をしない跡部のせいにしておいた。

それからの俺は時間も忘れて乗り物に没頭。
上から急下降するモノや、ジェットコースターはもちろんバンジーも散々やった。跡部はアトラクション慣れしていたせいか、一緒に乗っても全然驚きやしない。こんなもんか?と吐き捨てる様だ、お前マジでなんなんだと言ってやりたい。

これがもし侑士と乗ったら一回乗っただけで限界だと言うはず。あいつ高い所ダメだしな、眼鏡も飛ぶし?宍戸は唯一、一緒に楽しめそうな奴だけど鳳がへばったら介抱に集中するだろうし。ったく、相変わらず面倒見がいい奴だぜ!滝なら樺地と一緒に楽しむ俺らを見てる側だし、日吉は乗り物よりもお化け屋敷の方に行きたいとか言い出しそうだ。それだけは御免だぜ…。ジローは……コーヒーカップに乗ったまま寝てそうだな。

「…って、もーなんだよ。いい加減うぜぇな、俺」

本日7回目のジェットコースターを終え、退場ゲートをくぐる。やっぱり考えるのはあいつら絡みの事で、沈みそうになる気持ちをぐっと抑えた。

空を仰げば夕方になっていて、辺りはオレンジ色に包まれていた。疎らにあった人の姿は今は全くない。いくら平日とはいえ、これはやばくねーか?経営的にも。
ふらふらと簡易的なベンチがある方に向かえば跡部が突っ立っていた。手には携帯を持っていて、何やら話し込んでいる。
俺がいるのに電話かよと思いつつ、近付いていった。

「うるせぇ、いいから俺様の言う通りにしやがれ。いいか、必ず間に合うようにしろ!全員でだ。…ああ、じゃあな」

「跡部!」

何の電話かわからねえけど、ちょっとむっとした。今日は俺の我が儘で学校サボったけど、遊園地で一緒に過ごすのが誕生日プレゼントなんだから電話くらい控えたっていいだろ?…これって心狭いのか?
跡部はそんな俺の様子に気付いたのか、フッと余裕そうに笑う。くそ、なんだよまた読まれたのかよ。

「満足したか?」

「…した」

「そうか。なら、最後にアレ乗るぞ」

そう言って指を差す。
その先にあるのは薄暗くなった空に光りを放つ観覧車だった。

「いやいや…あれはちょっと、」

男同士という以前に、岳人にとって跡部と乗るのは遠慮したい乗り物だった。空は薄暗く良い感じになってきてるし、ムードに溢れている。微妙な反応を見せる岳人に不満そうに舌打ちをした跡部は、痺れを切らしその手を取った。

「黙れ、付いて来い」

「マジ勘弁!俺ら二人で観覧車はサム過ぎるって!!」

「俺達以外もう誰も居やしねぇよ、いいから来い」

「はぁ?なんでそんな事言い切れ…って、跡部お前もしかして…!」

「アーン?夕方から場内すべてを貸し切ったからに決まってんだろうが」

「お前…!」

そうか、だから夕方になるにつれ人の姿を見掛けなくなったのか。頭の中で冷静に判断するも、やっぱりセレブのやる事は理解出来ず口をパクパクとするだけの岳人。
そんな岳人を横目に、でも何処か楽しげな表情をこっそりと浮かべながらも跡部は握った手を離さなかった。


「来いよ、テメェに最高のプレゼントをくれてやる」


自信家な表情でそんな事を言われてしまっては、最早手を離す気すら失せてしまった。



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