君との軌跡U

□第46話「勝利と不安」
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「1セットマッチ、青学海堂トゥサーブ」




そのコールと共に開始された試合
試合は凄まじいものだった

若人はその才能が故にどんなプロの選手の事細かな所までマネをすることが出来た
それに振り回されてしまう海堂
海堂がその選手に慣れてくる度に若人は相手を変えてくる

だが、それさえも打ち破るのは流石海堂と言うべきか
海堂は苦戦しながらも、その手に勝利を掴み取った
これで城成湘南に王手を掛けたことになる




『お疲れ様、薫ちゃん』

海「…どうもっス」



雅はニッコリと笑って海堂にタオルとドリンクボトルを渡す
ただ純粋に勝ってくれたことが嬉しかったのだ


そして、皆と話し終え、次の試合が始まるまでの空き時間――
人通りの少ないベンチでその姿を見つけた雅はその人物のもとへ歩み寄った




『――…貴方も、お疲れ様。』

若人「!!」




雅は先程買った冷えた缶ジュースを差し出す
差し出された若人はただ驚き、唖然と雅を見上げた




『なに?』

若人「いや……ただ驚いただけさ。君、俺のことが嫌いなんじゃなかったの?」

『……今でも嫌いだから安心して。』




キッパリと告げる雅
だがすぐに「でも」と続ける




『試合しているときの貴方、すごくいい表情(かお)してた』

若人「!!」

『少しだけ、見直したよ。』

若人「へぇ。君は蔑んだりしないわけ?」

『どうして?だってプロのいいところをマネするのは悪いことではないでしょう?』

若人「!!」

『盗めるものは盗む。それも大事なことだと、私は思うよ。』




若人の一人分開けて隣に座る
若人は缶ジュースを受け取ったまま少し目を見開き、雅を見つめる




『少なくとも、強くなるためには必要なことだと思うよ。私はね。』

若人「…ハハハッ 面白いね。」

『よく言われる。自分じゃそんなつもりはないけど。』

若人「惚れ直してくれた?」

『馬鹿なこと言わないで。私の貴方への対する気持ちは何も変わってないよ。』

若人「ちぇっ。ま、どうせ勝つのは俺たちさ」

『どうかな』

若人「ぇ」

『リョーマを甘く見ない方がいいよ。あの子は強い。きっと、貴方よりも。』

若人「……あの一年の子、君の彼氏?」

『ふふっ 全然違うわ。彼の名前は知ってる?』

若人「当たり前だろ。越前リョーマ、今騒がれてるよね。」

『最後に、いいこと教えてあげる。
 ――私の名前は越前雅。あの子の姉よ。』

若人「!!!」




立ち上がり、前に落ちた髪を振り払いながら言った雅に唖然とする若人弘
彼女が告げた言葉と、その動作に驚きながらもどこか心惹かれる




『それと――…私の彼氏の名前は手塚国光。覚えておいて損はないはずよ』




そのうち嫌でも目にすると思うわ。


雅は去り際にそう言い残し、ニッコリと笑って去って行った
残された若人は呆然と雅が去った方を見つめる




若人「――…驚いたな…。この俺が、本気にするなんて…」




若人は前髪をかきあげ、雅から渡された缶ジュースを見つめる
――越前雅
どこか、魅力のある女子だと、初めて思えた気がした



 
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