犠牲の花
□◇兵士◇
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◇兵士◇
あれから、私もお風呂を頂いてから女将さんが用意してくれたご飯を貰って、緊張が解けた様子のリディアが遊ぼう遊ぼうとせがんでくる。当の私は随分眠っていた為体は軋む、脚は若干筋肉痛。しかも、この世界に来てから面白い程に運動する機会がなかったというのもあって、わりと効いてる。
「リディアは本当にユタが好きなんだね。」
羨ましいよと私達を微笑まし気に眺めていたセシルに、リディアはだーいすき!と言いながら私に強く抱き着く。嬉しいけどね、今はちょっと困りものだね。まあ、結局は私が折れて遊んであげるんだけども。いや、じゃれつくリディアを翻したりほっぺ捕まえてむにーしてる時点でもう遊んでるけど…まあ、きっとこの時間帯は安全。リディアとセシルと、状況を忘れてじゃれ合う。他愛もない事をして、話して、歌ったりなんかもしてみたり…あぁ、幸せ。楽しい。
私が今なりの"普通"を作ってあげるんだ。今、それがどんなに異常な状態であっても、不安を感じさせちゃいけない…大丈夫。私はそれが出来る。だって、とぼけるしか能がないんだものねぇ?そう、これから起こる事も、きっと大丈夫。きっとなんとかなる。
「リディア、もう眠いでしょ?」
「ねむ、くないもん…」
「ねーてーる!ほら、ちゃんとベッド入って」
「やぁだ…」
私にしがみついたまま船を漕いでいるけど、多分眠っている間に私が居なくなってると思っているのかも知れない。よっぽどの事がない限り、私はどこにも行かないよと伝えたところ、安心したのかすとん、と眠りについた。
「この子には…本当に、君が必要なんだね…」
「そんな事ないよ、この子はすごく賢くてしっかりした子だから…きっとね、私がいなくたってちゃんと前に進める子だよ。」
今は甘えちゃってるけど、リディアは本当に強い子。私は昔から思ってた…子供が、どうしてそんなに勇気を出せるのかと…
「心配ね、しなくても大丈夫…」
その言葉で今日はおしまい。明日はまた砂漠を越えるんだから、しっかり寝ておかないと…うん、しっかりしなくちゃいけないのは私の方。強くならないといけないのも私。弱いまんまじゃ、何も守れない──……
そんな事を考えながら眠りについた私は、みんなが寝静まった頃にふと目が覚めた。別に気味の悪い夢を見た訳でも、嫌な予感がするとかじゃなくて、ただぽん、と目が開いてしまった。眠気もなくて、二度寝しようにも眠れない。こんな時に困ったなぁ…寝ておかないと体力が確保出来な……と、言っても私は長いこと寝てたし、仕方ないかな…ベッドから出て、少し散歩をしようと外に出た。砂漠の真ん中と言えど、やはり夜は肌寒いんだなと実感した。
"生きてる"
そんな、当たり前な事を思ってしまった。
「…きれいだなぁ」
夜空を見て、絵に描いたような砂漠の夜。美しくはっきり見える月。砂と空の境。向こうで生きていたら、見る事は絶対に出来なかった光景に心が躍った。…ただ、その一瞬は。
「…ん、?」
違和感に目を細めた。それを何か確認する前に、もしかしてと思ってその違和感の元へ走った。…そう、当たりだった。
「うっそほんとに…?」
困った。まさか私が見付けてしまうなんて…迷った所でどうする事も出来ない。とにかく町へと担いで行くしかない…誰かを担いだ事なんてないけど、あの老夫婦に頼まないt…うっ…人間って重い…微かにあの譫言が聞こえる。ごめんね、そのままセシルの所に連れて行ってあげる事も出来るけど、ストーリー的には宜しくないんだ…ごめんねローザ。
「まぁまぁ…!どうかしたんですか?」
おばあちゃん!!?おばあちゃんこんな夜中に一体何をなさっていやいやそれより私は夜に人を担いでいるこの状況でおばあちゃんにお声を掛けて頂いたの?ご都合すぎないか?罠…これは罠なのか…?孔明!貴様か!…ふふ、私よふざけてる場合じゃないんだ、うん。
「あの、ごめんなさいおばあさん…この子、熱があるみたいなんです…どうか休ませてあげてはくれませんか…?!」
「熱…?大変!さ、早くうちに!」
それにしてもこの世界の人はすごく暖かい。リディアを抱えて宿屋に入った時も、店主さんはお代はいいから早くと言ってくれた…私の知ってる世界なら、こんな赤の他人を我が家に迎えようとなんてしない。前払後払いにしても融通の利かないのなんの…全く、本当の良心を見習って欲しいね。
「ううむ………これは高熱病じゃ…」
「高熱病…そんなに悪いんですか…?」
「厄介な病気じゃ…砂漠の光さえあればサッパリ良くなるが、今はどの医者も切らしていて、ほとほと困り果てておってなぁ…」
…分かり切った答えじゃないか…どうしてこうも不安になってしまうんだろう?お家に入っておじいちゃんも起きていらっしゃいました。お喋りしてたらこんな時間だったようです。仲良し夫婦で宜しいこと…
「私が取りに行ってきます」
明日になれば、結果的に行くことになるんだから、大丈夫…
「そうは言ってもねぇ…」
「砂漠の光は、ダムシアンの王族しか取りに行けない事になっておる。お嬢さんが行ったところで……」
「大丈夫です。きっと、きっと大丈夫です」
確信があるから、強く言える。大丈夫ですよおばあちゃん、おじいちゃん。必ず持って帰ってくるから、それまで、彼女の事をお願いします。
夜も遅いから、私は宿屋に戻るねと言って、老夫婦の家を後にした。
「…大丈夫。でしゃばりなんかじゃない…自然な流れだよきっと…」
正直、ローザを見付けてしまったのが仇とならないかがとても不安。こうなったらどうしようもないけどまた眠れば朝起きて、リディアとセシルと北の洞窟へ向かえれば
「──見付けたぞ、魔物め」