犠牲の花
□◇距離◇
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◇距離◇
「…ここは…」
真っ暗な、何もない場所。
…私は、確か砂漠を越えてようやくカイポの宿に着いたんじゃなかったっけかな…?
宇宙空間のような浮遊感と、それとは真逆な狭い閉鎖空間に閉じ込められている様な息が詰まる感覚。それが冷静を装った私の不安を煽り、それに追い撃ちを掛ける不気味な声。強い悪寒が全身を巡り、身体が石になったのではないかと錯覚を覚えるくらいの痺れを感じた。
聞いた事のある声ではある。聞き慣れたくもない、出来れば聞きたくなどない…こいつの全て、拒絶反応が出ても可笑しくない。
…だってこれは、幸せの歯車を狂わせた
「…会うのは初めましてだね?ゼムス。」
本当の根っこ。
そうだ、これは現実の夢。
きっと、私の意識に無理矢理干渉してきてるんだ。
「私疲れてるから、あんまり長いことはやめてよ」
《星に害悪を齎す毒花が生意気な…》
「ふん…星の核が星に災い、ねぇ…」
正直、私はそんな事に興味はない。
自分の事でいっぱいいっぱいなんだから
《貴様の振り撒く厄災は、既に世界に種を落としている》
「それがどうした」
《世界に絶望し、全てを呪い…毒虫と共に憎しみに染まるがいい》
こいつはこれしか言う事はないの?流石にボキャ貧なのでは?インコかなにかかな
「残念だけど、私には執着するものも憎むものも何もない。貴方の思うようにはどう足掻いたって動けやしない。」
もし私がゼムスの策の核を担っているんだったら、絶対に後悔するよ。だって私は何もできないんだから
「あんたも私も、力を持ちすぎたただの生き物だ。」
自分の手の届く所しか見えない。
ちっぽけな生き物。
大きな事を思っても、自分だけでは結局成す事は敵わない。
《執着ならば既にしている》
「は、 …?」
ゼムスの言葉の後に上から何かが落ちてきた。
こんな空間で液体が落ちて…?
不思議に思うよりも先にそれを拭ってた
…嫌な感触。
手に付いたそれを確認するよりも、私はゆっくりと上を向いた。
それを見たのと同時に落ちて来た2つの影。
《それが貴様の執着するものであろう…アネモネよ》
「…、 せ 、お、く……………」
あのセオドールくん
そして小さな、赤ん坊。
「ぁ…………ぁ、あ………」
小さな体にこびりついた生温い赤。
私の手にも、赤。
《毒花よ》
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
《自らの毒に狂うがいい………》