犠牲の花

□◇疲労◇
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まだ明るい日の落ちはじめ。

カイポまでどのくらいの距離があるのかは僕もユタも分からない。出発はできるだけ早くと一致していた。日が昇る頃までには着きたい所だ。リディアも先程から熱が出始めて、ユタが魔力を使って時折冷気を当てている。リディアも心配だが、魔力の使いすぎでユタの方が先に倒れてしまわないかが心配だ。




「大丈夫かい?ユタ」

「う、うん…なんとか」




砂漠を歩くのも初めてのようで、彼女は予想以上の歩きにくさに悪戦苦闘。それでも早くリディアをカイポに連れて行きたい一心で砂に取られる足を懸命に上げる。




「…もう少し、ゆっくり歩こうか?」

「あ!気にしないで!進んで!追い付くから!いける!大丈夫!」

「で、でも…」




既に結構な距離が空いてしまっている。あれは彼女なりの頑張りで気遣いなのだろうけど、この状況は効率的ではないだろう。




「ユタ、やっぱりリディアは僕が運ぶよ…慣れない砂漠にこれは流石に厳しすぎるだろう?」

「うぅ…ごめんよセシルくん…こんな喋る荷物で…!」

「そんな風に言わないでくれ。ユタ、君にはとても助けられているんだ…このくらいなんて事ないさ」




さあ。と、躓いて砂に座り込んでしまっているユタに手を指し述べてみると申し訳なさそうな笑顔でありがとうと手を取ってくれた。それは本当に細くて小さな手だった。戦いなど知らない、白く柔らかいその手を引いて…再び足を進めた。砂を蹴って、どうにか早く進める歩き方を探っている。一生懸命歩いて、僕の手をしっかりと握っているユタに、僕は段々と鼓動が早くなるのを感じていた。この細い手を守らなくてはならない。だけど、少し怖い。僕は彼女をちゃんと守れるのか、この華奢な女性を…もし僕が傷付けてしまったら、なんて事を考えてしまって

完全に日が落ち、夜闇の中をただひたすらにカイポのある方角である事を信じて進んだ。今の時間帯で戦闘を行うのはどう考えても得策ではないけれど、夜でも目が利く魔物からしたらそんな事は関係ない。寧ろ好都合なくらいだろう。月明かりだけが頼りの僕達にとっては不利極まりない。なるべく遭遇したくない所ではあるけれど、そう上手くもいかない。だが、魔物が現れるとユタがすかさずブリンクをかけてくれて、僕はリディアを抱えたままでも、不意打ちだったとしても攻撃を受ける事がない。彼女の咄嗟の判断で、これまで僕は傷一つない。




「セシルくん、大丈夫?疲れてない…?」

「僕はなんともないさ。それより、君の方が疲れているだろう?大丈夫なのかい…?」




歩き詰めで、戦闘をしている僕を気遣かってくれるけど、僕からしたら今まででは考えられないであろう量の魔力を使用しているユタの方が心配でならない。彼女にとって、きっとそれは歩く事よりもよっぽど大きな負担の筈。なのに彼女は大丈夫と微笑み、リディアの額に手を当て、まだ熱があるのを確認すると冷気をあてて冷えすぎないように熱を冷ます。




「ユタ…本当に、そんなに魔力を使って…」

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、セシルくん。」




使うのに慣れないといけないし。と微笑むものの、その笑顔は相当疲れている。辛い事があり、砂漠を歩き、慣れない魔力も使い通し…ミストから離れてこの砂漠に向かう間だって、気落ちしていた僕を気遣ってよく話しをしてくれた。食糧や水なんかも僕が持っていた最低限の物しかないのに、ユタはそれすら僕の持ってきている物なのだからと遠慮をする。

…強く休もうと言えないまま朝方まで歩き詰めてしまって…限界はとっくに来ている筈なのに、ユタは日差しが強くなるギリギリまで歩こうと言い出す。真っ直ぐ歩けもしないのに、リディアの為を思って自分の身体に鞭を打っている。…僕は何も言えないまま、歩いた。そして暑さを凌ぐ為にテントを張って日が落ちるのを待った。




「…ユタ…君はどうして…」




横になるやいなや、音もなく寝入ってしまったユタにぽつりと問った。返事など返って来る筈もない…どう足掻いたって、半日休んで回復するような消費量じゃない。僕も丸一日歩いて疲れた。きっと…ユタは既に限界なのだろう…眠っている表情もどこか苦しげだ。カイポにはいつ着くのだろう…早く2人を安全な場所で休ませてやりたい気持ちでいっぱいだ。
  
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