犠牲の花

□◇疲労◇
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◇疲労◇





「ここから山沿いに行くと砂漠があって、それを北東に進めば村があったと思うの」




その言葉の通り、山に沿って北へ進んでいくと砂漠が見えてきた。彼女が言うには…このまま北東へ進んで行けばオアシスのカイポという村があるらしい。しかし、まだ入っていないとは言え砂漠の周辺。まだ日が昇っている今の時間は暑い。アネモネは女の子…リディアが日差しにやられてしまわないようにクロークを被せ日を避けている。アネモネも、此処に来るだけでも随分と消耗してる。




「今日は此処で休もう…このまま砂漠に入っても暑さで倒れてしまう」

「そうだね…せめて日が落ちるまで待たないと…」




僕はアネモネが何故こんなに急いで村に行こうとしているかが分からない。僕は彼女の回復呪文のお陰でなんてことはないけれど、彼女自身は呪文を使うことも慣れていないと言う。確かに、魔道士だと王に紹介をされた時もまだ未熟ではあると…




「だけど、そんな身体ではとてもじゃないけど無茶だ…」

「ううん…私は大丈夫。ごめんね、急かすことして…」

「い、いや…君が謝る事じゃないさ」

「進んで足を引っ張るのは私だし、わがまま言ってるのは百も承知だけど…リディアを早く休ませてあげないと…」




…そうか、僕らにだってショックの大きい事が起きて…この子に負担が掛かってない筈がない。屈んで、そっとリディアを撫でる彼女。…その姿が、妙に懐かしい




「じゃあ、日が落ちるまでそこの影で一休みしよう。少しでも疲れを取るんだ」

「うん。ありがとうセシルくん」




笑ってはいるものの、疲れた様子のアネモネ。そっと肩に手を添え、岩影まで誘導する。リディアを抱いたまま座る彼女に寝かせたらどうかと言ってみるけど、これで大丈夫と放そうとはしなかった。いつモンスターが襲ってくるかも分からない野外。僕がこの2人を守らなければならない。…ただ…この不安は、一体何なのだろうか?僕は、どうしてしまったんだ…?赤い翼に居た時は、すぐに判断付出来たであろう事だった筈なのに…任を解かれ、アネモネと出会って…それから、ミストに着いてからどうも自分の判断力が落ちている気がしてならない。一体何故…もしかして僕は、赤い翼の隊長でなくなった事が心の底では嬉しかったのか…?背負うものが軽くなって、安心をしたとでも…?




「悩んでるね」

「えっ…!」

「そんな所に立ってないで、こっちおいで?」




ここにお座りよと隣の芝をぽんぽんとしているアネモネに、僕はNOとは言えず遠慮がちに座った。




「はー、なんだかんだでやっぱり外っていいね〜!部屋で根を詰めちゃってるよりずっと気分いいよ!」




膝にリディアを乗せたままできる範囲の伸びをして、僕の方を向くとにっこりと笑った。




「大丈夫だよ、セシルくん!自信を持ちたまえ!君は強いんだから、欲しい答はきっと近いうちに見付かるよ!」




彼女に言われると、どうしてこうも本当にそうなってくれるような気がしてしまうんだ…?アネモネ…この人は、一体何者なんだ…?




「アネモネ…少し、聞いていいかい?」

「なに?」

「………あの時、君達はどうやって助かったんだ…?」




首を傾げる彼女に、教えてくれと言うと、そっとリディアに視線を落としてから口を開いた。




「そうだね…確かに、あの私じゃリディアを連れたまま移動なんてできないけど、タイタンが居たからね」

「タイタン…?」

「そ、リディアが呼び出した召喚獣…君達が幻獣って言ってた存在だよ。本当は、召喚士であるこの子が気を失ったらタイタンもそのまま消えてしまうんだけど、私の魔力で少しだけ留まって貰ったの。」




そうか…だからアネモネはこんなに消耗しているのか…アネモネはタイタンにカインを探してはくれないかとも願ったらしいが、それは状況が悪く叶わなかったのだとか…だが、それでもカインはきっと無事だから心配はいらないよと言ってくれる。この人の言葉は、ありきたりで簡単だけど、何故こうも心のわだかまりを解してくれるのだろう…隣に、こうして座っているだけで、眠ってしまいそうだ。




「あ、そうだセシルくん」

「?」

「私の事ね、アネモネって言うのやめない?」




突然そう言われても僕は首を傾げるしかできない。確かに、リディアは彼女の事を…




「…ユタ…?」

「ふふ、やっぱり何度もリディアが呼んでたから分かるね!そう、私はユタ。」

「ユタ…」




…なんだろう、面と向かって聞いた聞き慣れない名前の筈なのに

なんて…

なん、て…懐かしい、響きだろう…?


 
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