犠牲の花

□◇混乱◇
2ページ/2ページ





「…………」



なんとか脱出して、いつの間にかに気を失っていた僕が目を覚ました時…そこに、ミストの村はなかった。代わりにあるのは巨大な岸壁。今の体力を消耗した僕では、登ることすらままならないだろう。




「っカイン…アネモネ…!!」




立ちはだかる岸壁に唖然としていた僕だけれど、近くに2人の姿もあの女の子の影もない。突然酷い不安に襲われて辺りを探し回る。だが、誰も見付からない。僕が…僕があの時、無理にでも2人を助けていれば…!そう、膝から崩れた。僕があんな所で間違った…いや、臆病な選択をしてしまったばっかりに…!




「くっっっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」




僕はなんて事をしたんだ。僕が犯す筈だったのであろう過ちを救ってくれた彼女を、僕は救えもしない!こんな僕が、バロンからローザを救う事なんて出来る筈がない…!!!あの時僕に逃げろと微笑んだ顔が、炎に飛び込んでいく際の酷く恐れた彼女の顔が目に焼き付いて離れない。なんてことを、僕はなんて事を───……

パニックで、どうする事も出来なくなっていた矢先…どこからともなく重々しい音が聞こえた。それはこちらに近付いている様で、音はだんだんと大きくなっている。きっと、僕の叫んだ所為で魔物が寄って来てしまったのだろうと剣を手に取り、構えると




「──……!!!」




僕に歩み寄ってきたそれは、魔物ではなく…先程、あの女の子が呼び出した巨漢…きっとそれが【幻獣】と呼ばれる者なのだろう…その幻獣の腕には




「あ………アネモ、ネ………」




アネモネと、女の子。

幻獣は、ゆっくりと、そうっと地面に2人を寝かせると…僕を見て、静かに消えていった。




「アネモネ………アネモネ、アネモネ!!!」




何度も呼んで、彼女に駆け寄りそっと頬を叩く。息をしている…生きてる。それが確認出来ただけで、震えが止まらなかった。僕はその場で蹲りただ…良かった、よかった…と呟いていた。すると、何かが僕の頬に触れた。




「泣かないで、セシル」




聞こえた声に、僕は勢い良く顔を上げた。触れている手が、鎧越しでもとても優しくて…微笑んで大丈夫と言ってくれた。小さな、弱っている声なのに、今の今まで苦しかった胸が、驚く程に軽くなっていた。そして、彼女は起き上がって隣に眠る女の子に触れる。




「アネモネ……すまない…僕は…」

「言わないで、セシル。」

「だが…!」

「貴方は間違ってない。貴方は、私を信じてくれた…この姿の私を。」




この姿…とは?と思ったけれど、そうだ…今まで、彼女は黒いローブを着て、薄布で顔を隠すように帽子を被っていた。だが、今はそのローブも炎で焦げ、帽子はない。改めて見る彼女は見た事もない黒い髪に、同じく真っ黒の瞳。…これがアネモネでなければ、もしかしたら怯んでしまっていたかもしれない。だけど、




「君は君だ。」




彼女である事に変わりはない。





次→◇疲労◇
*******************


進む。

☆更新日16/2/5

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ