犠牲の花
□◇再来◇
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「えー!ユタ出掛けちゃうのー?」
「うん、ちょっとね」
黒魔導師ファッションで私が出掛けると聞いて、せっかく早起きしたのに〜と肩を落とすリディア。なるべく早く帰ると約束して、私はリディアのお母さんとばっちりアイコンタクトをとり、頷いた。
「くれぐれも、お気を付けて…」
「はい。」
しっかりと杖を握り締め、ミストの村に背を向けた。洞窟はそこまで遠くない筈…ミストドラゴンのひんやりした背に乗せられて、どう2人を説得しようかを考えていた。あまりにダイレクトに言ったら怪しすぎるし、遠回しに言ったら私の語彙力じゃ分かって貰えない。
《神子様》
「ん…」
あぁ…もう、すぐそこだ。洞窟の入り口…いや、出口で、2人の到着を待つ。ミストドラゴンの背から降りて、洞窟に、少し入る。…きっと、私の言葉だけじゃダメだ。ストレートでもきっと……あぁ、そんな事を考えていれば、早速お出まし。さて、どうしようか…
「そこを通して貰おうか。」
「僕達は、この先のミストの村へ行かなければならないんだ。」
横に、静に首を振った。2人して顔は見えないけど、それは私も同じこと。
「此処から先に行ってはいけないよ。」
カツン、と杖を突いて呟くように言った。
「退いてくれ。僕達はミストへ行かなければならないんだ。」
「じゃあ、その不穏な指輪を捨ててはくれないかな」
「馬鹿を言うな。俺達はこれを届ける為にミストへ向かっている。」
退かぬなら力尽くで退かす。当然の流れ。私は彼らに殺される。彼女の代わりになれるのならばそれもいいか…とも思いながら、それはきっと許されない。
「私は戦えないよ。一般人さ。」
「なに?」
「ワケありでこんな格好だけどね。なぁ?お願いだよ。そのボムの指輪を捨ててくれないかな?それは、小さなミストの村なんて焼き払ってしまうよ。」
「…焼き払う、だと?」
彼らが、明らかに動揺の色を見せた。不安が破裂しそうで、杖を両手で握り締めた。
「ボムがどんなモンスターかは知っている筈だよ。ボムのかけら、ボムの魂の効果だって知らない筈ないでしょう?そういう事」
「…!」
「そんな筈はない!バロン王は…!」
「ミストの村は、とても貴重な召喚士の村。バロン王はその力を恐れて消そう考えた…と言えば、腑に落ちてはくれないかな?分かっては、くれないかな?」
言葉に詰まり、2人は葛藤していると信じてる。
「幻獣だってね、ミストの村を守るために現れるんだ…誰かを、傷付ける為なんかじゃない…」
「しかし、王は…」
「君は王の操り人形?人形が、そんなに迷うの…?違う、でしょ?何か訳があっても、彼の様子がおかしいのだって分かってるんでしょう?ならね、今がチャンスだよ…命令に背いて、その指輪を捨てて。」
冷静に、冷静を心掛けなきゃ、恐ろしくて泣いてしまいそう。意思の揺らぐセシルを尻目に、カインが前に出てきた。
「お前、アネモネか。」
「…!」
「カイン?」
「ミストの幻獣に拐われたと聞いていたが…どうやらそうではないようだな。」
「私はどこの敵味方なんかじゃないよ」
流石、と言うところかな…バレちゃうと思わなかったよ。まぁ…小細工なんてしてないし驚く事もないか…
「私がアネモネでもそうでなくても、そのボムの指輪を捨ててくれるまではt んあっ?!」
………皆さん聞いてこけた!!!ちょっと前出ようと思って足踏み出したら裾踏んでこけたよこいつ!やっっっだありえないくらいだっせえ!!!
…笑ってやって(しにたい)
「違う…っ待って、今の…今の違うから、違うから…!」
「は…はぁ…?」
「付き合ってられん。行くぞセシル」
「やあーーー!待ってお兄さん!待って!」
私の横を通り過ぎようとするカインをどうにか引き止めようと腕にしがみついて引っ張った
「放せ、重い!」
「女性に重いとは失礼なぁ!分からず屋はきっと後で痛い目に遇うんだからな!」
「貴様に言われた所で説得力の欠片も感じんわ!」
「せっかく警告してあげてるのにーーー!!」
後ろで置いてきぼり喰らってるセシルよごめんな!カインとキャンキャン言い合っていると、突然ミストドラゴンが鳴き声をあげた。
「ど、どうしたのミストドラゴン…?」
「ミストドラゴン…幻獣かっ!?」
「もう黙れてめぇ」
《神子様!空をご覧ください!》
「なっ…!?」となってるカインを放置して洞窟から出てすぐ、私は目を疑った。