犠牲の花
□◇再来◇
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◇再来◇
─ミストの洞窟。
「カイン…君は、どう思うんだ?」
焚き火を見詰めて、セシルが静かに問いかけた。何の事だと首を傾げるカインだが、一拍を置いてアネモネの名が出ると、納得したようで「あぁ、」と溢した。
「ミストの幻獣に連れ去られたと聞いた時は驚いた。まさか、彼奴の救出も任されるとはな…」
「全く世話の焼ける…」とため息混じりに吐き捨て、薪を投げ込む。セシルは俯いたまま、ポツリポツリと口を開いた。
「僕には分からない…魔導師アネモネは…本当に魔導師なのだろうか?そんなに大きな魔力を持っているようには見えない…この間会った時も、何の凄みも感じなかった。」
「同感だ。あれは何処にでも居る一般人だ。魔力は王の思い違いかも知れんな。」
そう言い、カインは興味なさげ岩に寄り掛かった。
「………だけど、何だろう…?この、気持ちは……」
***
─ミストの村
「ユタ!こっちこっちー!」
「もーっ リディアー!待てーっ」
「きゃははっ!」
此処はミスト。あの後、ミストドラゴンが現れて私を村まで連れて来てくれた。それと、バロン城でのホワイトアウトはやはり彼女の霧が原因だった。彼女がバロンの手から私を救おうとしてくれていたらしい。そうだね。私の事を知っている人からしたら、私は捕えられてると思われても全然不思議じゃない。少し眠ってから、目を覚ますとリディアが居て、リディアのお母さんが居て…思った。また、あんな事でグジグジしてる暇なんてない。彼女達と居られたら、私は戻れる。…この後に起こる事は怖いけど、私は私なりに元気出さなきゃ。
「ほーら!捕まえたーっ!」
「きゃーっ!」
こうやってリディアとじゃれるのももう2日目。そろそろ来るんじゃないかと思ってるけど…どうかな。今はまだ、リディアと一緒に遊んでいたい気持ちでいっぱい。
「リディア、ユタ様。」
丁度いい所でリディアのお母さんが様子を見に居らした。
「ユタ様、ありがとうございます。こんなにリディアと遊んで頂いて…」
「いいえ!いいんですよ!リディアちゃんとならいくらでも遊んであげますよー!」
「ほんとー!?ユタ!」
瞳を輝かせて期待の眼差しを送るリディア。もうほんとにかわいくて仕方ない。ほんとだよ、と肯定をしたら大喜びで抱き着いてきた。かわいすぎる殺される。
「うふふ、良かったわねリディア。」
「うん!」
「でも、ユタ様にあまりご迷惑をかけるんじゃありませんよ?」
「大丈夫ー!ねーっ ユター!」
「さぁ〜?どうかなぁ〜?」
「えー?!」
此処に居たい。そう思うだけタダ。私の願望。…リディアが寝たら、彼女と話してみる必要があるかも知れない。
***
「ユタ様…」
「リディアちゃん、眠りましたよ。」
「今日もよく遊んだから」と付け足すと、彼女は優しい笑顔でお礼の言葉をくれた。私も笑顔を返して彼女の向かい側に座る。
「…それで、お話とはなんですか?」
そう問われ、目を合わせて感じたのは「知ってる」。…やっぱりこの人は分かってる。
「言うまでもないとは思いますが…近々、バロンの者がこのミストの村にやって来ます。」
「…はい。」
「私は、彼らを止めに行きます。」
「ユタ様…!いけません、彼らは私が必ず…」
「私が、行きたいの。」
止められる保証なんてない。きっと私では無理なんだろうけど、今の2人なら分かってくれる。
「あの2人は話せば分かってくれます。私は貴女にも、この村にも、彼らにだって傷付いて欲しくはない。上手くいけば、誰にも危害が加わらないうちに事を納められるかも知れない。…虫のいい話かも知れないですけど…やって、みたいんです…」
私は馬鹿だから。これがどんなに愚かで無謀であろうと、賭け…になるのかな。それを、してみたいんだ。
「……分かりました…ですが、私のドラゴンも共に参ります。それで、宜しいですか?」
「うん。2人はきっと私が説得する。彼らはとてもいい人なの。だから手は出さないであげて。」
「承知しました。」
…セシルとカインは多分、きっと…明日くる。