犠牲の花

□◇城内◇
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「っはぁ……」




──深夜。私はまた夢を見た。衝撃で何も覚えていないけど、なんて性質の悪い夢だ。寒気が酷く、未だに動悸が激しく咽ぶ程に苦しい。あれから数日、数週間とずっと安定して随分落ち着いていた所によくもしゃあしゃあと…軽く咽ながら、布団から起き上がって深呼吸。風に当たろう。そう思って部屋を出た。部屋の窓でもいいだろうに、少し歩きたいが為に階段を降りていく。そして小さく溜息を吐いた。




「あぁ…夢つら…」




一歩ずつゆっくり歩きながら額に手を当て、嫌な夢を見た後に毎回やってくるこのかったるい気分にうんざりする。そして本日2度目の溜息。たまに足が絡まりそうな感覚になるけど、気にせず歩く。気持ち的には、少し引っ掛かる。




「─…」




階段を降りていくと…一歩手前で、私の足は止まった。…先客が居る。でも、誰だろう…?此処に来てから初めて見るシルエット。…分からない。月明かりだけでよくは見えない。だけど色素の薄い長い髪で…大きくて体格のいい人。…大きさから考えたらゴルベーザではないかと思うが、シルエットが見慣れた甲冑ではない。…普段よりも鈍くなっている頭で思考を巡らせながら、彼をじっと見詰め、首を傾げていると…




「誰だ。」




私の気配に気付いた彼が問い掛けた。…聞き覚えのある低い声。驚いて肩は跳ねたけど、それで確信をした。




「あ、えと…」

「……、アネモネか…?」




何と答えていいか思い付かずに戸惑い小さく声を溢すと、彼の方からこちらに振り向き、私の名を呟いた。




「あっ うん……えっと…貴方は、ゴルベーザさん?」

「………そうだ。」




問い掛けに彼は窓の方に向き直り、短く、どこか寂しげに肯定。…彼も甲冑を脱ぐ事あるんだなぁ…顔は見えないけど、ゴルベーザは、ちゃんと人なんだと言う事を確認ができて、凄く嬉しくなった。私は小さく笑顔を溢してゴルベーザの隣に行こうと歩き出した。でも次の瞬間、突然目眩に教われた。倒れないように踏ん張ろうにも、ここは階段。足を踏み外して、落ちた。

──けど、多分ゴルベーザが私を受け止めてくれた。心配をしてくれているのか、ゴルベーザが短く声を掛けてくれた。…ふふ、何だか一々嬉しいな…でも視界が回ってしょうがない。…苦しい?おかしい。どうしてこんなに苦しいんだろう?




「ん…ちょっと目眩…」




ごめんね、ありがとうと言いながらゆっくり答え、深く息をしながら、壁伝いに沿うと、しゃがみ込んだ。




「、…アネモネ。」

「へいき、」




説得力ないんだろうな。実際、目眩が酷くてしゃがんだそこから動けない。そうしていると、大きな手が私の肩を掴んだ。添えられただけだと言うのに、押し負けて屈んでいたゴルベーザの膝に寄り掛かる形となってしまった。




「体調も優れぬのに何故部屋を出た。」




呆れて溜息と共に出た様な、そんな言葉。それはそうか。でもこんな目眩に襲われたのは初めてだ。あの夢の影響なのか、それとも体調不良か…私にはよく分からない。ぽつりぽつりと質問に答えると、ゴルベーザは暫く口を閉ざした。




「、大丈夫…」

「…」

「ごめんね…部屋、戻るよ」




いつまでも彼に寄り掛かっている訳にもいかないし、きっと困らせてる。肩に添えられた手をそっと退けてゆっくりと立って覚束無い足取りで来た道を戻る。けど、不意に身体が浮いた。




「送ろう。」

「、え…」

「その足では途中で倒れかねん。」




そう言って、私が何かを言う前にさっさと歩き出した。





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