犠牲の花
□◇襲来◇
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「ユタさん!」
着々と炎に包まれていく城の中、ただ誰かに会いたくて必死に走っていると、真正面から白魔さんの声が聞こえた。白魔さんは私を探してくれていたのか、すぐに駆け寄って抱き締めてくれた。
「あぁ…っよかった!無事でいて下さったんですね!」
「…白魔さん…っ」
こんな状況でも、見慣れた顔を見ると心底安心する。私は白魔さんのローブを握り、すがる様にしがみついた。
「…ユタさん…」
そんな私に、白魔さんは察してくれたのか、もう大丈夫と撫でてくれる。あぁ…落ち着く……今は、そんな場合ではないのに…早く、早く逃げなきゃ───…
「此処にいらっしゃいましたか。アネモネ様。」
辺りの熱が増す。その低い声が耳に届くと、血の気が引くのを感じた。白魔さんが私を庇うように後ろに隠し、声の主を威嚇する。…──遂に…来て、しまった。
「貴方…!このエブラーナに何用です!」
ダメ。逃げよう?向かっていかないで。…そう言いたいのに…どうして、声が出てくれないの
「無論、ゴルベーザ様が国を落とされているうちに…我らのお客人であるアネモネ様をお迎えに上がったのだ。」
「何を馬鹿な事を!ユタさんは我らエブラーナの民のお客人!決して貴方達のような者達には渡しません!!」
客人…?どういう事…?私は貴方達に仇なす存在ではないの…?
「貴様ら人間にアネモネ様をお守りする事は出来ぬ!」
「ユタさん!逃げて!!」
「白魔さん…ダメっ!」
声を振り絞って叫んだけれど……もう、遅かった。火炎流が白魔さんを呑み込んで…私は、炎の激しさに後退りするしか出来なかった。…また、命が散ってしまった。そんな光景を、私は見ているしか、できない……もう全てが衝撃で涙すら出てこない。熱い筈なのに寒くて…その場に立ち尽くして、焼け焦げた白魔さんを、ただ…見詰めていた。
な に も で き な い。
「しろ…ま……さ、ん…」
「さあ、アネモネ様。我らと共に参りましょう。ゴルベーザ様の元へ。」
なんで?どうして?何かを考えている余裕もなく、ただ…その場で起こっている状況が怖い。呆けている私に徐々に近付いて来て、私に伸びてくる手。逃げたい。逃げたいけど足がすくんで動けない。後退りすら出来ない。…怖い…嫌だ─…
「何してんだバカ!!!」