犠牲の花

□◇襲来◇
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◇襲来◇




そして翌朝。エッジは案の定私を抱き枕にしていました。それを一番に私を起こしに来たあの白魔道士さんに発見されて朝から一騒動。エッジは当然じいやに説教されてます。




「あー!こんな事なりゃしっかり手ぇ出しときゃよかったぜ」

「若!」

「どうせならってあんたどう考えても目に見えた結果でしょうが。」

「いくら若様でもユタさんの操を奪うなんて許しませんよっ!」

「私をガードする白魔さんの固さがちょっとよく分からな っぐ」

「ユタさんの為なら例え火の中水の中!!」




勢いよく私を抱き締めた白魔さんの腕は私の首へ。…白魔さん、絞まってます。首めっちゃ絞まってます苦しい。それを見兼ねたじいやとエッジの制止がなかったら私落ちてたかも知れない(白目) …なんだかんだ、そんな1日の始まりで、昨夜の不安なんて忘れてしまってた。今日もいつもみたいに、エッジと言い合いして、白魔さんや王妃様とお茶したり…何気ないやり取りをしながら穏やかに過ごせると思ってた。…あぁ…なんで油断しちゃったんだろう…




「───…」




まだ日も高く、穏やかな時間。…私は酷い寒気に襲われた。どうしていいか、分からなくなった。自分の身体が小刻みに震えて…いけない…唇からそう溢れて、私は走って見張らし塔へ向かった。そこにはいつもの兵士さん。私に明るく挨拶してくれる。そして心配してくれる。…あぁ…生きて欲しい…っ 私は塀に身を乗り出して辺りを見回す。…それらしい影はない。




「ユタさんっ 危ないですよ?!そんなに急いでどうしたんですか?」

「敵が来る気がするの…」

「え?」

「とんでもないのが来るの…っ」




近い。いやだ。近い。居る、そこに。怖い。…何でこんなにハッキリ感じるのか分からなくて恐ろしい。見張りの兵士さんは驚きながらも震える私を労りながら敵の影を探す。怖いよ。なんでこんなに近く感じるの?信じらんない。




「兵士さん…私、生きて欲しい…皆に、逃げて生きて欲しいよ…!」

「ユタさん…大丈夫です!エブラーナは負けません!」




「だからそんなに怖がらなくていいんですよ」って、笑顔で元気付けてくれた。貴方の笑顔、大好きだよ。だから生きて。お願い、生きて、生きて生きて…ッ




「来た…っ」




私小さく呟くと、それが合図かの様に轟音が響き渡った。その音で兵士さんは咄嗟に鐘を鳴らした。皆に逃げろと言う為に。早く逃げないと、本当に命を落としてまう。兵士さんが君も早くと腕を引いて走ってくれる。階段を駆け降りていくと、そこには無数のモンスター。しかも、コイツは─…




「ユタさんこっちへ!」




兵士さんに腕を引かれ、フロアを駆け抜けモンスターから逃げる。しかし、何処のフロアにもモンスター。行く先々に、モンスターは蔓延っていた。




「っくそ…!」

「兵士さん、」

「…ユタさん。」




呼ばれたと思ったら、突然隠し通路へと押し込まれ、驚きと戸惑いでつい倒れ込んでしまった。でも、隠し通路の扉が閉められてハッとした。そして




「すみません。ユタさん…私だけでは、貴女を守りぬく事はできない。…そこに、居てください。」





そこならきっと大丈夫。と…兵士さんの言葉。…ねぇ、貴方は?貴方は何故此処へ入って来なかったの!? 待ってと言う暇すらもなく、兵士さんの足音は遠ざかって…私はただ壁の扉を叩いて、兵士さんを呼んで開けてと叫ぶ。しかし聞こえてくるのは魔物の鳴き声。そして、少し遠く聞こえた嫌な音。…嫌な…鈍く、床に落ちる音。掠れた、音……身体が震える。血の気が引いていくのが分かる。嫌…いや、いやだ。




「っ…やめて…ねぇ………っ兵士さん、ねぇ、ねぇっ…!」




返事を、して。




「へい…し、さん…っ」




──…帰って来るのは魔物の声。欲しい返事は何処にもない。恐怖でその場を動けない…どうしたらいい。私はどうしたらいいの?下を向いて、歯を食い縛る。そんな時、外側から衝撃が伝わってきた。…さっきよりも、近くなっている魔物の声。…此処に、私が居る事を、知っている…私が壁を叩いてしまったからだ…いけない…どうしよう…私には無理、できない。どうしよう…少しずつ、壁が崩れてきた。私は奥へと後退り、命の危機をひしひしと感じた。…やるしか…ない、と…覚悟を決めた。




「…っ 弾けろ…ファイア!」




本当に使えるかなんて分からない。でもとにかく何かしなくてはならない。城を壊してしまう事は億劫だが、今はそうも言ってはいられない。…だけど




「───………」




…威力を、疑った。私が唱えたのはファイア…初級の筈。なのに、何故こんなにも激しくとんでもない炎が…壁を燃し、辺りに居たモンスター達をも呑み込んで……唖然と、燃え上がる炎を見上げて…その炎の後にあったのは、焼け焦げて…力なく横たわる、無数のモンスターの姿。




「───っ…!」




絶句した。…これは、私がやったんだ。私がこのモンスター達を、私が焼き殺した。…なんで…?おかしいよ…私はファイガなんて唱えてない。私が唱えたのはファイア。普通のファイア。…なんで、なんで?何でなんでなんでなんで!!!恐ろしくて、私は堪らずその場から逃げた。





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