零れたNectar
□聖域
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『聖域』
あれから幾月が過ぎた。私は、彼奴の言う通り…自分に疑問を抱いた。私は一体何者なのかを、確かめたくなった。彼奴の言う通りになるのはとても不本意で、非常に腹立たしい。…だが、己を知る事に腹立たしいなどと思っては居られぬ。知りたいと思うなら──…
行ってやろうではないか。
堂々と──…
***
辺りに風に煽られた砂が舞い、黒に吹き付ける。その風の音と、砂を踏むザリザリという小さな音だけが響いていた。…徐々に第一の宮が姿を現し、その先に宮を守護する聖闘士を確認する。
「………。」
「此処は、貴方の様な者が訪れて良い場所ではありません。…早々に、この場を立ち去りなさい。」
来いだの去れだの…面倒な言葉ばかりだ。
「…いつか、青い髪の男に呼ばれて来た。『己の事が知りたくなったならば、ギリシャの聖域に来い。』と。…私は己を知りたくなった。だから来た。」
聖闘士は私を見据え、暫くの沈黙を経て、宮を通る事を了解すると、案内を命じられていると私の前を歩き出した。彼はアリエスのムウ。…印象は、よく分からん奴だ。何も言わず、階段を上って行く。
それぞれの宮を守護する者と少しからず顔を合わせる。彼らは当然私を善きものと捉えておらず、鋭い目付き。恐らく、私の何かを感じているのだろう。
──私も、犇々と何かを感じていた。
…此処に
「バルゴの、シャカ…」
此奴が、居る事に。
「どうかしましたか?」
「…いや、何でもない。」
動揺してしまい、黒布を掴み上げて口元を隠した。
「君。」
呼び止められ、気付かれたのではと少し怯んだ。
「名は、何と言うのだね?」
「…ラテュ、と呼んでくれ。」
どうか気付くな。
「フム、そうか。」
「…。」
「では、私の思い違いか…」
「…ならばもう行く。」
さっさと処女宮を抜けたくて、足早に歩き出すが
「待ちたまえ。」
再び呼び止められる。
「まだ何かあるのか。」
「君の小宇宙、私の幼い頃に何処かで感じた事があるのだが…何処かで、会った事はないかね?」
気付いていて聞くのか、それとも確信がないから聞くのか。それは定かではない。だが、無性に腹が立つ──…っ
「貴様の様な男、一度会ったら嫌でも忘れぬわ!」
「そうかね。」
私はそう言い捨てて、ムウを置いてさっさと宮を抜けた。
黄金聖衣を纏い十二宮を守護しているなど…全く出世したものだ。
「貴方は、本当にシャカと面識はないのですか?」
「会っていようがいまいがお前には関係のない話だ。」
「…そうですね。」
「……。」
私は、女など…嫌いだ。
それ以上に嘘吐きが嫌いだ。
軽い奴もうざったらしくて嫌いだ。
会いたくなどなくても嫌でも現れる。
この聖域でも気を付けねば…
関わって、私の気が持った試しもない。