零れたNectar
□迎え
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『迎え』
バケツを引っ繰り返した様な土砂降りの中、1人立ち尽くす人影。自らの身を黒い布で全て覆い隠したその姿は、まるで自分以外のものを拒むかのような物々しい雰囲気を放っていた。影は静かに動き出すと、後ろの岩壁を睨み付け雨水の鳴らしながら数歩近寄ると…
小宇宙を解放し、一瞬にしてその岩壁を粉々に消し去った。そしてその場に降り立つ1人の男。先程から自らの行動を窺っていた張本人。
「…やはりその小宇宙、ただの人間ではないな。」
「…。」
彼の口から出た言葉はあまりに理解しがたいもの。それを言われた当の本人は何を言い返す訳でもなく首を傾げる。
「その強大な小宇宙。アテナに劣るとは言え、攻撃的かつ危険な小宇宙。中々消息を掴めずないたが、ようやく見付けたぞ。」
「…悪いが、何の事だかサッパリだ。探していた?この私をか。フン…それはまた随分と無駄な事をしたものだ。私は貴様などに関わるのは御免だ。」
「しかし放っておく訳にはいかぬ。」
視線背けこれっぽっちも興味がない事を示すが、彼の言葉を聞き、何故かと問う。
「先程も言った様に、お前の小宇宙はただの人間のものではない。もし暴走する様な事があれば…」
「ふざけるな。その様な事、とうの昔に出来ている。貴様の考える心配など無用だ。」
言葉を遮り苛立ちを見せるが、男はそれに動じず次の言葉を紡いだ。
「お前の小宇宙は二面性がある。」
「…二面性だと…?」
「一面は穏やかで繊細な小宇宙だ。何の問題もない。だが、もう一面は先程も話した通り、荒々しくとても攻撃的な小宇宙。…その小宇宙の正体を探るべく、お前には聖域まで共に来て貰いたい。」
「そんなくだらん理由で私は行く気などない。」
頑なに男の言葉をはね除ける小宇宙の主。しかし、男も引かない。
「お前になくとも、来て貰わねばならん。」
「…『断る』と言ったら…?」
「『力尽くでも』。…と言いたい所だが、そう言う訳にもいかん。」
「…ほぅ?」
「…お前は、己の事を知りたくはないのか?」
そんな問い掛けに、主はどうも癪に障る様で眉をしかめる。機嫌は損なわれていくばかり。
「己を知るだと…?己の事なら自身が一番良く知っている。そんな面倒必要ない。」
「…そうか。ならば己の事が知りたくなったならば、ギリシャの聖域に来い。」
「ギリシャの、聖域…?」
「そうだ。其処の宮の者にこの事を話せば通してくれるであろう。」
「…フン。興味ない。」
「…そうか…だが、己が知りたくなったならば、いつでも歓迎をする。」
「…………。」
男がそう言いその場を立ち去ると、その人もまた、その場に背を向け歩き出した。
──彼奴は何なのだ…
訳の分からん事ばかりを言い混乱させに来ただけか?
…いや、初対面の相手にその様な事される覚えはない。
では、何だと言うのだ…?
「チッ…分からぬな…忘れてしまった方が良さそうだ。」
高い崖の上。ただ、雨に打たれていた。
次→聖域
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君を救いにやって来た。
☆修正日13/12/12