犠牲の花
□◇敵陣◇
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「──…ほぁ…」
ゾットの塔から外には出られないけど、風に当たれる場所はあると、ルビカンテに連れて来て貰ったのはゾットの塔最上階の隅にある、唯一の窓辺。
「これで宜しいですか?」
「うん。ありがとう、ルビカンテ。」
お礼を言って、私は窓に手を掛け窓縁にぐっと身を乗り出す。…高いですね窓。足浮きました。
「夜なんだね。今。」
「はい。もうじき深夜です。」
「そっか。」
この高いゾットの塔から見る世界。とても広くて、遠く見える。スー、と霧が晴れていくような気持ちのいい風が吹く。不思議と、何も怖くない。
「──貴女の魔力は、貴女が思って居られる以上に強いものです。」
遠く、流れる雲と共に見える地上を眺めていると、ルビカンテが静かに話し出した。…魔力の事で、私はつい肩が跳ねた。
「…しかし、それは貴女の意志で容易に操る事が可能です。力を恐れれば恐れるだけ、魔力は暴走します。」
「…出来ると信じて出来るのだとしても、私にはまだできない。」
「アネモネ様」
「私の居た世界ね。」
ルビカンテの言葉を遮って、思い切って口を開いた。
「何処かで何かの戦いはあったのだとしても、私はそれと全く無縁で、魔法や魔物なんて、これっぽっちもない世界だった。」
「……。」
「だから貴方達には普通でも、私にとって魔法はまだ未知の力なの。…使う事が出来るのが本当に信じられないくらい。…頭でいくら考えても、頭では全部分かってるから答えが出なくて…分かってはいても、まだ、怖い。だから……きっと、今は出来ない。」
吹いた風のお陰か、言い切る事ができた。本当は世界の事は言わないで居ようと思っていた。あの世界とこの世界では、あまりに違いすぎる。…その違いで、私は本当にこの世界では部外者なんだと。必要のない存在なんだと思うのが怖かった。…でも、そんなのよりも怖いものにぶち当たってしまった。そんな事、グダグダ考えて怖がってちゃやっていけない。そんなの、最初から分かってる事だったのに。
一つ深呼吸をして、少し冷えてきたところで「そろそろ戻ろうか」と窓から下りると
「…───!」
頬に暖かいものが掠めたと思った次には、既に包まれていた。状況が読めずに思考を巡らせていると、
「…申し訳ありません。」
頭の上から、ルビカンテの声が聞こえた。
「申し訳ありません。アネモネ様。」
「…え…あ…?」
それしか出て来なかった。ルビカンテが何を思って何で私を抱き締めるに至ったのかが全く分からない。とりあえず、この人めっちゃくちゃ暖かい。
「ゴルベーザ様から貴女の情報を頂いた時…アネモネと言う名と、強い魔力を持つ黒髪の女性と言う事のみでした。しかし、ゴルベーザ様が必要とされる人物ならばどんな強さを持った者かと思っておりました。」
「…あぁ、うん…だろうね…」
「ですが、何処の町娘と変わりない貴女に、いくら強い魔力を持っていようともこれでは宝の持ち腐れと、失望と疑念を抱いてしまいました。」
「あぁ…」
「それでも命ならばと思っておりました。…貴方の御心が傷付き崩れる様を、見るまでは。」
「…」
「…アネモネ様。貴女はなんと脆く、お優しい方なのだろうと…」
彼の腕に力がこもる。
「貴女の強さは魔力ではなく、そのお心なのだと、理解致しました。」
「ルビカンテ」
「異界から居らした事を知りながら、そのお気遣いが出来ずに申し訳ありませんでした。」
私を放して、膝を付いているルビカンテと真正面から向き合う。
「このルビカンテ。必ずや貴女をお守りすると、此処に誓いましょう。」
次→◇貴方◇
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人なんて難しいようで案外単純
☆更新日13/12/8