A M O U R -アムール-

□儚い君に旋律を
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「薫君。」


「ケイトさん。」





暫くすると、ケイトさんが様子を見に来てくれた。





「この子は、眠っているだけかい?」


「はい。」


「そうか。」





短く言葉を交わすと、ペラップに視線を落として数秒の沈黙。





「アンタ、どうしてギンガ団の前に立ったんだい?」


「え…?」


「普通はあんな事しやしないからね。」


「あ、はは…そうですね」


「ま、アンタが行かなくてもアタシが追っ払ってやろうと思ってたからさあ!」





豪快に笑うケイトさん。


…そうか。





「ケイトさんが、ソノオタウンのとっても強い人ですね?」


「ん?何だ、聞いてたのか?」


「はい。ジョーイさんから。」


「何だ、驚かせようと思ったのにな」





『あのお喋りめ。』と、また笑った。





「…もう見ているだけなんて嫌なんです。」


「…」


「今まで僕は傍観者で、自分から何もしようとしなかった。そればかりか、何をして良いのかも分からなかった。」





私は変わりたい。





「最近も、自分の本音を言わずに後悔をした…それが悔しい。 だから、僕は…ギンガ団が許せない。自分の欲望に正直すぎて、彼奴らは歪んだ…そう、思いました。」


「…そうだな。彼奴らの真相が何にせよ、それは変わりないかも知れない。」





同意してくれるケイトさんが嬉しかった。


私の意見を言ってそう、同意してくれる人が居る…


今までは、そう言う人が居る事を私は知らなかったんだ。





「あのお店のポケモン達は、みんなケイトさんのポケモンですか?」


「ん?ああ、そうさ。あの店は、アタシともう1人とその手持ち達でやっているんだ。」


「へぇー… 、え?」


「ん?」





ケイトさんと、もう1人と…





「ポケモン達とだけ…ですか…?」


「ああ。厨房もオーダーも、全部兼用でやってるんだ。」


「…すごい子達、なんですね。」





確かにケイトさんと話をしてる時、エルレイドがホワイトボードでお客さんと会話してたっけな…





「正直」





突然、ケイトさんが真剣な顔付きで話し始めた。





「アタシ、アンタがギンガ団に対応して良かったと思ってる。」


「ぇ…」





あんなに、迷惑掛けたのに





「アタシだったら、普通にあのジュピターとバトルしてた。
…そうしたら、今頃この子は…きっと戦闘不能だ。」


「…!」


「アタシは、そんな方法しか思い付かなかった。」


「…バトル…」





この子は、バトルが…


怖い。


私には、そう…見えた。


それは私がこの子達の言葉を理解しているからに過ぎない。


ポケモンの声が聞こえないケイトさん達にとっては…


そうするしか…





「このペラップは…アンタだからこんなに無傷で保護出来たんだ。…大分疲れてはいるけどね。」


「この子は…とっても辛くて、苦しくて…本当は、バトルなんて出来ない子なんです。」


「……。」


「ずっと、誰かに助けて欲しかった。でも、何処に、誰に助けを求めても…この子の声は、誰にも届かなくて…ずっと泣いていたんです。怖くて怖くて、でもずっと逃げ出せないで居たんです。」





知ったかだなんて分かってる。


この子の事は、この子にしか分からない。





「これからだって…本当にこの子の安心できる場所…ギンガ団の手の届かない平和な場所を見付けてあげる事が、私に…出来るかどうかも分からないです…」





この子の、望むように。


この子の安息の地が、ありますように…





「…大丈夫さ。薫君なら。」


「僕は…」


「言ったろ?自信を持て。お前は卑屈すぎる。アンタのやる事は確かに無謀だ。だけど、正しいとも言える。」


「…自分では、本当に馬鹿な行動にしか思えませんけどね」





ははっ…と薄く笑うと、ケイトさんも「違いはない!」と笑った。





「あ、そうだ。」


「はい?」





突然、何を思い出したのか


ケイトさんが声を上げた。





「薫君に客が居るんだ。」


「客…?」


「ああ。入っておいで!」


「………?!」





入って来た其れを見た瞬間、目を疑った。


何せ、それは





「コリンク、君…?」


『……………。』





あの、私の腕に噛み付いたコリンクだったから。





「どうしたの…?まさか、怪我でもしてた…?!」


「違うよ。」


「じゃあ、どうしてPCに…」


「店の前で項垂れてたんだよ、此奴。」


「お店の前で…?」





私は、コリンク君に近付いて目の前にしゃがむ。


コリンク君は何かされると思ったのか、目を硬く瞑る。


…そのコリンク君の頭を、優しく撫でると、


そっと目を開けて、とても不思議そうな目で私を見た。





「そんなに緊張しなくて良いよ。怒ってないから。」


『…。』





コリンク君は、無言で私の左腕に擦り寄った。


…自分で噛んだ私の腕を心配してくれてる。





「…大丈夫だよ。誰だって、あれだけ怖かったら攻撃しちゃうよ。」


『………っ…』


「大丈夫、泣かないで。」





泣き出すコリンク君を抱き上げて、撫でてあげる。


すると





『っおれ…おれ…っ…!』


「ん?なあに?」


『おれっ…おまえ…っ』


「ん?」


『みんなっ おまえの、こと敵だって…言っててっ…こわ、かった…!でもっ でもっ…』





あぁ…


やっぱりそうだったんだね…


野生のポケモンは、みんなそう。


種族、関係なく。





『でもっ おまえっ まも、って た…っ そいつのこと…っ 』


「うん。」


『おれっ…おれ、噛んだのに…っ怒ら、なかったっ…ぁ、ぅ…』


「うん。」


『ごめっ…ごめ、ん なさっ…ごめん、なさいぃ…っ!』


「大丈夫。」


『っう…ぅ、ぇ…っ』


「いいよ。大丈夫。…泣いて良いよ。気が済むまで、いっぱい泣きな。」


『ッうわぁああああああああああああああ あああああああっ ごめんなさっ ごめんあさぁああいいいいいいっ うわああああああああああああ 』


「うん。」





腕の中で、大声を上げて泣き出すコリンク君。


それを、泣き止むまでずっと撫でてあげる。


…今、私がこの子にしてあげられる事。








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