薄桜鬼 短編

□幻影
1ページ/1ページ




愛しくて愛しくて・・・・

でも・・・あなたは決して私を見てはくれない。

どれほど切望しても私を側には置いてくれない。

それでも私を抱く腕は優しくていつも惑わされてしまう・・・。








私はこの身を売って日々の生活を送る薄汚れてしまった女。

私のいる遊郭に、私を指名し参じる殿方は少なくない・・・今でも目の前にあなたではない男が私を見詰めている。

赤い瞳金色の柔らかそうな髪の・・・強引な殿方。

数日置きに参じて下さる優しき方・・・。

私があの方を想っているのを知ってなお通って下さるお方。

私はあなた様をお慕いする事が出来ればと何度も想う日もあったのに、思いの比重は変わらないままだった。

「お前の思う様にすればいい。俺はお前の想いなど知らん・・・俺が来たくて此処に来ているだけだ。」

ゆったりした話し方に尚更思いを返せない自分を呪い・・・あの方への思いが募る。

『あの小娘がいなくなれば・・・』

思わずこぼれた自分の言葉に怖くなった・・・。

いつもあの方の隣にいる少年の格好をしている少女・・・身も心も穢れない開きかけの花の蕾の様な・・・綺麗な笑顔を持つあの子をこれほどまでに嫉んでいるとは・・・。

たった数回きて欲の処理のためにだけ抱かれた・・・それだけの関係。

参じて下さる時は、指名してくださる・・・熱く抱いても下さる。

でも・・・それだけの関係。

あの少女を見つめる様な、柔らかい眼差し・・・慈しむ様な笑顔は向けられない・・・私には。

あの少女より女としては優れている・・・そう想っていたのに・・・すでにくすんでしまった私の微笑は・・・太陽のようなあの子には勝てるはずがない。

日差しの下で生きる力の満ちたあなたの眼差しを受け止めるには・・・それより純粋に輝く相手で無いと燃え尽きてしまうのでしょう。


判ってはいる・・・頭ではね。

心は全く別のことを思う。







「叶えてやろうか・・・。」

赤い目を艶めかしく細め、盃を傾けながら私を捉えるその瞳に・・・縋りたくなる。

「その娘、我々の同胞・・・少々癪だが・・・我々とて損は無い。どうだ?貴様の願い叶えてやろうか?奴等の元からあの娘を消してやろう。」

『・・・・・・そんな事が・・・出来るのですか?』

片方の口角だけ上げ、排他的な表情を一瞬垣間見せる。

「俺に不可能は無いと思え。・・・ただ、褒美を貰おうか・・成功した暁には・・・お前を抱かせてもらうぞ。」

強引な事をするのに、この方は私を抱こうとはしなかった。

”勿体無い、心と体両を虜にしてから抱いてやる”と最初に宣言し、そのまま・・・接吻だけで帰ってしまう。

図々しいと思っていたあの頃から随分絆されてしまったのかもしれない・・・貫くような眼差しに嫌悪を抱かなくなり・・・なにか、落ち着かない気持ちにされてしまう。

それでも、あの方への思いも断ち切れず・・・








数ヶ月後・・・あの方が私を指名し、部屋に来るなり思わぬ勢いで組み敷いてきた。

「あいつを奪われた・・・守ってやると・・・約束したのに・・・」

後悔、悔しさ、苛立ち、寂しさ・・・全てをぶつけて来るその抱き方に・・・・・・・・・・・・・私は醒めた思いで揺すられていた。

あの少女の代わりになど・・・なれるわけがないから・・・

あなたの瞳には・・・私が映る事等ありえないのだと・・・零れる嬌声の合間に理解した・・・。



私は花魁・・・この遊郭の花形。

誰かの変わりに抱かれるのは・・・これで最後。

『軽んじるのも程にして欲しい!』

あなたに抱かれるのもこれで最後・・・。








赤い瞳が私の全てを貫いていく。








懸想していたあなたの前にいるのに・・・私を今貫くはあなたなのに・・・





私は違うあの人を・・・あの赤い瞳を思い出している。




「褒美を貰おう」



そう言って、現れるあの人を・・・



一日でも一刻でも早く会いたいと思う私を・・・



もう・・・偽る事など出来る訳がない。



行燈の明かりに揺れる影が・・・・


あなたの手で揺れる身体が・・・・





あなたを求めるのは昨日までの私・・・・



















声にならない声であなたを呼ぶ・・・



















・・・・・・・・・・・・・・・・千景様


















好いた人間のために千鶴を攫ってしまう・・・そんな千景様・・・あってもいいかななんて。

(あのかた)にあなたは誰を当て嵌めましたか?

moekazu2時間の妄想世界でした・・・。

お付き合い戴きありがとうございました

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ