東方闇魂歌〜The Devil Dark Soul

□第四章
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 咲夜が感じた侵入者の気配。その気配のあったところへ飛んでいくと、そこには見覚えのない人物がいた。背中に薄いピンクがかった羽を持つ彼女は、こちらをうかがうかのようにじっと見ている。

「あなた、ここに何の用かしら?」

 だから言った。主人のレミリアの招待を受けた感じではないため、咲夜もまた様子を窺いながら話す。

「用がないなら帰ってもらおうかしら」

 どうやってここへ現れたかは分からない。また門番が寝てたりして通過してきたのかもしれない。一番しっくりきてしまうから困る。後でまたおしおきね、と思いながら、相手の返事を待つ。

「……分かったわ。お邪魔してしまったわね」

 しかし、その人物はあっさりと受け入れた。これがあの巫女だったらますます厄介だったかもと咲夜は思いつつ、咲夜に背を向け出口であろう方向に歩く女性を静かに見送る。

「待ちなさい」

 しかし、どこから聞こえたか分からない、咲夜よりも幼い少女のような声が、女性の足を止めた。そして、咲夜の後ろからゆっくりと、その声の持ち主が歩いてきたのだった。





















 霊夢たちは次に近くにいる外来人を探すため、魔法の森の中を飛んでいた。フェシーのサーチという魔法を頼りに森の中を探す。だが、いっこうに人のいる気配が感じられなかった。

「ほんとに外来人がこの近くにいるの?」

 しばらくして霊夢がフェシーに聞いた。

「サーチに反応しているから、間違いないと思う……が」

「フェシーのサーチはボクたちに反応するんだから間違いないよ!」

 あまりはっきりと断言しないフェシーに対し、チタは強気で言い返した。

「アンタは黙ってなさいよ」

「ぶー」

 霊夢とチタのやり取りにははは……と苦笑したフェシーだが、しかしサーチが思ったより役に立たないことにどうしようかと悩んでいた。

「そうだ。この近くに私の友人のアリスの家があるんだ。とりあえずそこに行ってみないか?何か情報をつかんでるかもしれないぜ?」

 ふとその時魔理沙が何か思い出したようにみんなに提案した。

「そういえばそうね、いってみましょうか」

 珍しく納得した様子で霊夢が同意した。フェシーもこのまま闇雲に探しても仕方ないと感じ、その提案に乗ることにした。

「行きましょうっ!」

 そして文も元気よく言った。魔理沙を先頭に家へ向かう。この時フェシーが出現させていた矢印は、徐々に近い場所に近づいているという反応が出ていたことをこの時誰も知るはずがなかった。





















 アリス・マーガトロイドは、自宅で人形の手入れをしていた。彼女は人形師であり、人形の手入れをするのは日課のようなものである。彼女は黄色い髪と赤いカチューシャ、水色を基調としたワンピースを着ている。そんな彼女が人形の手入れの最中に、休憩がてらちらりと様子を見るものがあった。

 アリスが普段使っているベッドには、見知らぬ人物が眠っていた。その眠っている表情はまるで人形のようである。

「……ふぅ」

 ベッドで眠るその人物を一瞥しつつ、ため息をつく。起きそうな気配はまだない。確認したところでアリスは人形の手入れを再開する。そんな時に、その人物は目を覚ました。

 頭のほとんどを緑色のふんわりした帽子で覆っており、服もまた緑色を基調とした軽装。一番の特徴は首のあたりから垂れ下がった白い布かマフラーのようなものだった。

「ここは一体……」

 フェシーと同じ黒い瞳が、周囲を見渡す。しかし、全く知らない場所だった。その時、ドアをノックする音が聞こえた。

「誰かしら……」

 その音に気づいたのはその人だけではなかった。黄色い髪の少女が、ドアへ向かう。














 アリスがドアを開けると、そこには魔理沙を先頭に霊夢たちが来ていた。

「よっアリス」

 魔理沙はアリスへ気軽に挨拶した。アリスは魔理沙を見ると、嬉しそうな顔になる。

「魔理沙じゃない。どうしたの?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだ。入ってもいいか?」

 アリスは頷き、中へと招き入れた。魔理沙の後に霊夢、文と続いたが、その後ろから来ていた見慣れない姿の人物にあら?と疑問符を浮かべた。

「あなたたちって……」

「外来人よ、外来人」

 フェシーとチタを見るアリスに向かって、霊夢が簡潔に言った。全員が家内に入ったところで、魔理沙が口を開く。

「何かの拍子でこっちに来てしまったらしいんだが、その時彼らの仲間が幻想郷のあちこちに飛ばされたらしい。アリスはこの事について何か心当たりや知ってることってないか?」

 アリスは片手をあごにつけて軽く考えた。そして考えるのをやめると、それなら……と呟いてベッドの方を見た。

「外来人かどうか知らないけど、一人あそこで寝かせてるわ」

 そう言われ、霊夢たちもベッドを見る。そこには少女らしき人物が布団に包まれて眠っていた。……と思ったが、実際はこちらを伺うように、布団から出ずに霊夢たちを見ていた。

「あら、起きてたのね」

 アリスが呟く。フェシーとチタが少女のそばまで来ると、少女は驚いた顔になった。

「フェシー…!?それに、チタも!」

 意識がはっきりしていることに安堵したのか、フェシーの顔からは安心したというような朗らかな笑みが出ていた。

「リッキーか。無事みたいで何よりだよ」

 リッキーと呼ばれた少女はうなずくと、ベッドから体を起こし、降りた。

「しかし、人を助けるなんて、アリスも珍しいことするんだな」

「失礼ね。私だって人を助けることくらいするわ」

 皮肉を言う魔理沙にアリスがムッとなる。その後にすぐ、「冗談だぜ」と魔理沙は付け加える。そして待ってました!とばかりに、文がフェシーとリッキーの近くまで寄ってくる。

「ついに3人目の外来人発見ですね!それで?あなたとリッキーさんはどんな関係なんでしょう?!」

「いや、普通に仲間なだけだが……」

 軽く流す。リッキーも軽く頷いたため、「そうですかぁ……」と文は少し残念そうに呟く。そんな時にリッキーがふと気づいたようにフェシーへと質問をする。

「あ、そういえば……。フェシー、ミミリンは………?」

 フェシーはその問いに、無言で首を横に振った。

「そっか……」

 リッキーの顔が、少し残念そうに下を向く。しかし、文は知らない外来人の名前を聞き逃すはずがなく、

「ふむふむ。ミミリンという人物があなたの恋人なんですね〜」

 と、どこから取り出したのか分からないメモ帳とペンですらすらと言ったことをメモっていた。

「えっ、ちょ、あの……!?」

 とたんに恥ずかしい内容をメモられたと、リッキーはすぐに顔を上げて赤くなっていた。

「フェシー。まだどこかに仲間はいるの?」

 するとそれまで黙っていた霊夢がフェシーに仲間の居場所について聞いた。フェシーは手を前に出すと、再び矢印を出現させた。矢印はまた別の方向を向いている。

「まだいる。この方向は……」

 そこまでフェシーが言うと、素早く文が近くまで歩み寄った。文はふむふむと言うと、

「この方向はおそらく白玉楼ですね!では私、先にそちらへ行ってきます!」

 と言って家のドアまでそそくさと行動する。

「「はい?」」

 と、フェシーとリッキーが言った時には、既に文は「お邪魔しましたぁ〜♪」と言って家から飛び出していた。

「結局、あのカラスは何しに来たのかしら」

 アリスがそんな文を見て呟いた。

「ネタを探しに来たんでしょ」

「たしかにそうだな…」

 霊夢と魔理沙はそう呟いて苦笑していた。



第伍章へつづく

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