東方闇魂歌〜The Devil Dark Soul

□第壱章
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第壱章 来訪者

 幻想郷は、暑い夏から涼しい秋の変わり目を迎えていた。幻想郷の最東端に位置する神社、博麗神社では、いつも通りほうきで掃く音が聞こえていた。ほうきを掃いている人物はこの博麗神社の巫女、博麗霊夢。彼女は博麗神社で今日も朝をむかえ、神社の前を掃除していた。

「……最近事件がないからいいけれど……暇だわ…」

 ほうきで地面を掃く音と穏やかな風の音しか聞こえない神社は寂れてるように感じて仕方がない。

 実を言うと、霊夢は少し前までこの幻想郷に起きていた異変を解決へと導いたばかりだった。本来なら今の状態が本業なのだが、神社には参拝客が来ないという寂しい現実に、いつもここは開店休業のような感じだった。

 そんな暇をもてあそぶ霊夢が代わりにと言ってもいいほどやっていた活動が、幻想郷に起こる異変を解決することだ。彼女自身は解決する気がさらさらなかったのだが、結果的に霊夢の行動が異変の解決に結びついているおかげで幻想郷は平和を保っていた。そして最近は異変がなく、霊夢が動くことはもちろんない。異変がないのが一番と言う霊夢だが、やはり異変がないと暇な時間が有り余ってしまうのでついついそんなことを呟いてしまうのであった。

 そんな霊夢のもとへ一人の少女が訪れた。少女は乗っていたほうきから降りると、掃除をせっせとしている霊夢のところまで歩いてきた。

「よっ、霊夢。相変わらず暇そうだな」

 彼女の名前は霧雨魔理沙。黄色い髪と黒い帽子、そしてワンピースが特徴の見た目で魔法使いと分かる姿をしている少女だ。霊夢は魔理沙の声に気づくと動かしていたほうきを止め、ぶっきらぼうに返答する。

「当たり前でしょ。参拝客がいないんだから」

 博霊神社への参拝客がいないのはいつものことだ。神社へ来る人はいるものの、そのほとんどが妖怪だったりする。

「せっかく来たんだからお賽銭箱にお金入れていきなさいよ」

 いつもお茶とか飲んでいくんだから、と付け加え、魔理沙にそう言う。

「悪い。まだツケにしてもらえると助かるぜ」

 苦笑いしながら苦し紛れに返答する。霊夢の顔がさらにむすっとなる。







 そんないつもと変わらない日常。そんな時に“それ”は起きた。

 霊夢と魔理沙のいる神社の裏側で、突然屋根の上に光が現れたのだ。

 屋根から漏れる光に気づいた霊夢と魔理沙がその場所をしばらく見ていると光は次第に弱くなり、そして消えた。

「何だ?」

「さぁ?」

 2人して顔を見合わせる。とりあえず気になったので2人は神社の裏へと行くことにした。神社の裏へ来ると、そこで霊夢と魔理沙は足を止めた。誰かが倒れていたのだ。

「お、おい!」

 魔理沙が先に駆け出す。その人物は魔理沙と似た焦げ茶の帽子をかぶっていて、青いマントをはおっていた。魔理沙が無事かどうかの確認をするあたりで霊夢も軽く走って倒れている人物のところまで近づいた。

「ちょっとあなた、大丈夫?」

 そう言いつつ、霊夢はこの人物が見慣れないなと感じていた。そして同時にある可能性を予想していた。少しするとその人物から声が聞こえた。うつ伏せだった体を半身だけ起こす。

「……ここは…」

 はじめに呟いたのがそれだった。低く澄んだ声。見た限り霊夢たちと同い年に見える少年だった。

「ここは幻想郷の最東端にある博霊神社ってとこだぜ」

 とりあえず魔理沙が答える。少年は声に気づいて魔理沙のほうに顔を動かした。

「はくれい神社…?」

 少年は聞き覚えがないとでも言いたげな表情で神社の名前を復唱する。

「あぁ、やっぱりあなた、外来人だったのね」

 そして今度は霊夢が呟いた。少年は目の前に2人いるのを確認すると立ち上がり、体についたホコリをはたいた。

「外来人…?一体どういう……」

 そう呟く少年に、霊夢は頷いた。外来人………つまり幻想郷以外の世界からここへやって来た人全てを指す。霊夢は過去に何人もの外来人に出会っており、元の世界へ帰る手助けをしたことがある。見覚えがなく、幻想郷に住まう者なら誰もが知っていてもおかしくない博麗神社を知らないとなれば、なんとなく少年が外来人だろうという予想はつく。

「とりあえず、あなたの名前を先に教えてちょうだい」

 先に聞いておく必要があるだろう……そう思った霊夢は少年に名前を聞く。少年はそれに動揺することもなく落ち着いた声で自分の名を名乗った。

「俺は…フェシー・エンディル」

「フェシー……ね」

 霊夢は少年の名を復唱した。そして霊夢もまた自己紹介をする。

「私は博霊霊夢。こっちにいるのは霧雨魔理沙よ」

「おう、よろしくな」

 魔理沙も片手を上げて挨拶した。フェシーも軽く礼をしたところで、霊夢は1つ質問をした。

「外来人ていうのは、この世界の住人じゃない人たち全てを差す言葉よ。……ところであなたどこから来たの?」

 おそらく外の世界から“スキマ”によってここまで来てしまったのだろうと推測する。本来幻想郷は博麗神社の大結界によって容易に来ることができない。だが、外来人がそれでもここへ迷い込んでしまう原因の1つとして、“スキマ”が関係していることがよくあった。なので霊夢は、また今回もきっとそうだろうと思っていた。

 だが、霊夢たちが聞いたのは予想外の答えだった。

「俺は、リクワイアという世界から来た。……どうやら別世界に来てしまったらしいな」

 最後のほうは独り言のように呟いた。

「リクワイア?」

 聞いたことのない名前に霊夢と魔理沙は顔を見合わせた。そして、フェシーの口からさらに信じられない言葉が飛び出した。

「あと、たぶん俺以外に何人か仲間がこっちに飛ばされたと思うんだ。だから探しに行きたいと思うんだが……」

「……なんですって?」

 なぜそういうことが分かるのか、霊夢と魔理沙にはよく分からなかったが、もしフェシーの話が正しければ、外来人がまだ幻想郷のどこかにいるということになる。

「なんでそんなことがあなたに分かるの?」

 不思議に思って霊夢は聞く。

「なんでって……」

「いいじゃねえか。探してみようぜ霊夢」

 口を濁すフェシー。だがそこで魔理沙は他に外来人がいるのを知ってか、少し興味をわかせた。

「どうせ暇なんだろ?それに今回は異変じゃなくて人助けだ。お賽銭箱にお金が入るチャンスかもしれないぜ?」

「うっさいわね、最後のは余計なお世話よっ」

 魔理沙の余計な一言にツッコミを入れつつ、しかしそれもそうねと思い直し

「じゃあ仕方ないから、探すの手伝うわ」

 と言った。フェシーは苦笑を浮かべつつ、一緒に探してくれることに嬉しさがわいた。

「ありがとう。よろしく頼むよ」

 そしてフェシーは頭を下げた。


第弐章へつづく
 

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