短編

□背中に愛しさ
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「す、スクアーロ隊長、お願いします、どいて下さい…!」

「どけたきゃ、力ずくでやってみろぉ。」

「そんなの無理です!」

「だろうなぁ。」

そう低く囁いたスクアーロ隊長の声は息が耳にかかる程近くて、私の肩は反射的にビクリと跳ね上がる。



ここはスクアーロ隊長の執務室で…私は先日完了した任務の報告書をチェックしてもらおうと訪れたはずだった。
しかし、差し出した報告書は今、隊長のデスクに散らばっており、何故かその上には私の身体が乗っている。
自分の背中に潰され、グシャグシャになった憐れな報告書は、私が二日間もかけて書き上げた物だったので一瞬泣きたくなったが、今はそれどころじゃない。
薄いシャツ越しに感じる隊長の体温の高さに、これから自分が何をされるのか予測がついた私は、自分を固いデスクの上に張り付けている隊長の大きな身体を押し返そうと腕に力を込めた。
だが、やっぱり私なんかの力ではびくともしなくて、焦る気持ちばかりが膨らむ。

「スクアーロ隊長〜…。」

困りきった私が情けない声で隊長の名前を呼ぶと、少しだけ身体を浮かせてくれた隊長の鋭い瞳に睨まれた。
あ、おもいっきり眉間にシワ寄ってる。

「かなり…待ってやったんだぜぇ?」

「う…、そうですよね。」

付き合って三ヶ月。
同じ屋敷に住んでるのに、良い歳した大人の男女がいまだキス止まり…遅いのは分かってる。
でも、駄目だ。
まだ“見せられない”。
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