短編

□無音2
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私は小走りでスクアーロの元へと向かった。
カツカツと高音を鳴らして地面を蹴り上げるヒールの高い靴。
その音に反応して振り向く周囲の視線は、もの珍しそうに、一人で走る私に注がれた。
その絡まる視線から逃げたくて、急いでスクアーロに駆け寄ると、彼は私を置き去りにした事に対して詫びるどころか「遅ぇ。」と文句を突き付けてくる。

(確かに足を止めてボーッとしていた私が悪いけど、声もかけずに一人でさっさと行ってしまったスクアーロも少しは悪いじゃないか…!)

そう思った私は、彼に何か言い返してやろうと意気込んで口を大きく開いた。
けれども、その瞬間にあちこちから「ケンカか?」、「さっき一人で走っていた女の子だわ。パートナーいたのね。」という声が上がってしまい、私は何も言えないまま口を元通りに閉じた。

「何か言いたそうな顔してんなぁ?」

「……。」

「ゔお゙ぉい。」

「……。」

スクアーロが無言を決め込む私の顔を見下ろし、口端を吊り上げる。
その愉快そうな表情を見る限り、彼が私の口から文句を引き出そうと挑発しているのは明らかだ。
しかし、私はそんな挑発に乗るものかと、一層、唇を固く結んだ。

(ここで言い争いでもして、これ以上注目を浴びるのは御免だわ。)
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