短編
□無音
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「任務だ。」
今から数秒前。
気持ち良く昼寝をしていた私を布団ごとベッドの下に蹴り落とした我らの暴君は、そう一言吐き捨て、私の部屋から去った。
私は体に絡んだ厚い布団と毛布を剥ぎながら、床に手をつきゆっくりと起き上がる。
一体、今自分の身に何が起こったのか…寝ぼけた頭で理解するよりも先に、ボスに蹴られた腕の辺りと、勢い良く床に落下した際にぶつけた背中がジンジンと痛み出した。
「イタタ……任務…?」
かろうじて耳に留めたボスの言葉を確認するように復唱した私は、いそいそとクローゼットから隊服を取り出す。
そして、着ていた部屋着をベッドの上に脱ぎ捨て、隊服の袖に片腕を通した瞬間…
「ゔお゙ぉい!邪魔するぜぇ!」
ノックも無しに勢い良くドアを開けて、部屋に踏み込んできたスクアーロと視線がピタリと合った。
「スク…ッ!?」
反射的に私は一度袖に通した片腕を引き抜いて、胸元を隠すように隊服を抱きしめる。
「あ、有り得ない…!女の部屋にノックもしないで入ってくるなんて!」
「ハッ、女だぁ?」
私の文句に対して、そうスクアーロは間髪入れずに答えると、必死に隠した私の胸元を見て、一笑した。
「…悪かったわね、“無くて”。」
「オレは、まだ何も言ってねぇぞぉ。」
「嘘だ。絶対言った!…心の中で。」
「口に出してない事を勝手に想像すんな!…ま、否定はしねぇけどなぁ。」
どうやら彼は気遣いだとか、思いやりといった言葉を知らないらしい。