短編

□沈みゆく餌
4ページ/4ページ

「そうだぁ。アーロはオレの思考を読んじまったから…」

そこまで言いかけて、彼は一度口を止めた。
そして、次にスクアーロが口を開いた時……私の体は彼が今まで座っていたソファーに沈んでいた。
きつく掴まれた両腕の痛みも、勢い良く押し倒された時に打ち付けた背中の痛みも感じない。
それよりも強く感じたのは、喉元に食らい付くように当てられたスクアーロの唇の熱さ。

「…テメェを食おうとしたんだぁ。」

言いかけた言葉の続きを口にして、スクアーロは掴んでいた私の両腕を解放した。
だが、依然として押し倒されている体勢は変わらず、私は自分を見下ろしてくる彼の青灰の瞳を、茫然と見つめた。

「スクアーロ…?」

「こんな夜中に、オレの部屋へ一人で来たテメェが悪ィ。」

そう熱っぽい声で吐き捨てながら、スクアーロが私のシャツの釦を一つ外す…。
多分、今私がこの自由になった両腕を使って、抵抗の意思を見せれば、彼は私を逃がしてくれるのだろう。
それだけの隙をスクアーロがわざと作っている事に、私は気付いていた。

気付いていたけれど…。
私は逃げなかった。





END

⇒戻る
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ