過去拍手
□False lover
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頭が、真っ白になった。
今の私は、このボスの奇行の意図を考える余裕がない。
ボスは私の首筋から少しだけ唇を浮かすと、「…貴様は、オレが部下にこんな事をすると思うのか?」と目の前にいる女に言い捨てた。
(あ…。ボスは私の失敗をフォローしてくれたんだ…。)
私は、今更ながらボスの行動の意味を理解した。
そして、ボスのただならぬ威圧感に押された女は、ギリッと下唇を噛み締めると、言葉も無いまま足早に去って行った。
女の姿が見えなくなったのを確認すると、ボスは再び私の腕を引いて歩き出す。
そのままパーティー会場の外へと連れ出され、人気の無い場所まで来ると、ボスの足がピタリと止まった。
「…このカスが。なんであの女にバレたかわかってんのか?」
「それがさっぱり…。」
「恋人の事をボスなんて呼ぶ奴はいねぇ。」
「あ…っ。」
私は、ようやく自分のしでかしたミスに気付いた。
私がさっき口走った台詞…。
“私はボスの恋人です”
その矛盾した一言は、私がボスの部下だと公言しているようなものだった。