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Clap小説/安榛


安形の唐突な思いつきにより、俺たちは花火をすることになった。今日もいつもに例外なくどちらかの家でぐだぐだ過ごすことになると思っていたのだが、どうやら違ったようだ。何故か安形の目には希望が満ち溢れている。どうしてそんなに、とも思ったが、気分で物をいうのはいつものことなので放置。きっとすぐ、『やーめた』なんて言い出すんだから。

だけど、そんなことも言わずにせっせと準備を進めていて。(なんで花火があったかはあえてつっこまないが)やけに張り切っている安形に言葉では言い表せない不安を抱えたものの、大人しく見守ろうと思ったのがついさっき。

(花火なんて久しぶりだし…楽しまなきゃね!)

と、なんともまぁ自分の杞憂もそっちのけて楽しむことを選択したわけだけれども。

「…安形、何やってるの…?」

「何、って見りゃわかんだろ。花火同時に三本つけてんの。
よくやったよなぁ、"恐怖の花火鬼ごっこ"」

「あぁ、懐かし…っておい! それ危ないだろっ」

今回の花火の主催者が花火を一気に三本点火、それだけでも十分に危ないというのに、さらにそれを持って俺を追いかけようとしてくる。
こいつの脳みそどうなってんだ。

「まぁいいじゃねぇかよー。楽しいぞー?」

「うっ…。け、怪我しても知らないからな!」

「かっかっか、道流もやるぞー」

がさがさと袋から何本かだしてきて、そこに一気に火をつける。これは本来の使い方ではないし、どちらかと言わなくても取扱い説明書には注意するべき点として書かれるほうの行為だろう。こんな使い方、花火職人のひとに顔向けできないよ、

ぱちぱち、とは程遠い音を立てている花火を眺めつつも安形のいる方向にこっそりと先端を向ける。ちょっといじわるしてやれ、とほんの出来心のつもりだったのだが、その仕返しにと安形が放ったねずみ花火に追いかけまわされたのはいうまでもない。
はじめはあまり乗り気ではなかったが、こうも馬鹿なことをしているともう笑うしかなくなってきて、ついには大爆笑。明日には腹筋は崩壊してるだろうと思いつつ、次は一本だけ花火を取った。

(これをこうして…っと。うん、我ながら上出来)

火をつけて、道路に描いたのはハートマーク。傍からみれば不恰好なそれも、俺からしてみれば上出来だった。
知らず知らずのうちに口角が上がる。

「みてみてっ、ハート書いた!」

「あほか。…ちょっと貸せ」

自分で満足な出来のもの(というか自分)を侮辱されたほか、俺が持っていた花火も分捕られて、ちょっと…いや、かなり不機嫌な顔で安形を睨む。すると安形は俺と同じように道路にハートを描いて見せた。その腕前は、なかなかのもので。

「ほら、俺のほうが上手いだろ」

「…っ、負けねーし!」

正論を言われたが故に何ともいえない気持ちがこみ上げてきて、俺は残り少ない花火を持ってハートを描くことに専念した。花火の残りがゼロになるまで一緒になって安形も描き続けていたためか、安形の家の近所の道路一帯がハートだらけになってしまった。仕方ないか。

「あーあ、もう花火無くなっちゃったじゃん。安形がいつまでも諦めないから」

「お前だって楽しんでたんだしいいじゃねーか。
あと、まだお楽しみが残ってる」

ちょっと待ってろ、と言って小柄な袋から出してきたものは…

「線香花火…?」

「そ。これはやっぱシメだろ」

「その考え方が女の子っぽーい…」

俺の発言によって後ろから安形が喚いていたけれども、やっぱり放置。手から線香花火を引き、火をつける。さっきの派手な花火もいいけど、こっちも好きだ。日本の風流ってかんじで。

「なぁなぁ」

「なに、…っ!!?」

声ととも肩を叩かれ、その次に見えたのは全面の黒。それと同時に唇が重なり、気付いたときには安形は目の前で舌なめずりをしていた。

「あー…何してんの」

「何って、キス?
8月27日なんだから、いいじゃねーか」

「そうじゃなくて、安形のせいで花火落ちた」

「え、あ、うん。ごめん…?」

安形はぽかんと、何を言われたかわからないというような顔で首を傾げている。キスされたのなんか一瞬で気付いたわ。ばかやろう。

「まぁいいやー。次は一緒にやろ」

道路の端に追いやられたかわいそうな線香花火たちを迎えにいって、そのうちの一本を安形に差し出すとグイッと腕を引かれ。いつの間にかすっぽり安形の腕の中に納まっていた。

(不意打ちが多いなぁ、まったく…)

「…道流、後で覚悟しとけよ」

「は、えぇぇぇぇー!? どんな流れでそうなったの!? 早まるなって!」

「別に早まってなんかねぇし。
8月27日なんだから許せよ」

「8月27日の乱用が過ぎるだろ!
…残りの花火やるときにくっついてててくれるなら考えてやってもいい」

「まじでか、」

「まじでだ」

それなら、と抱きしめられている腕に力が入った。
こんなんでうれしくなっているなんて、俺も相当末期だけれども。

もう少しだけ、抱きしめられていてあげようか、と回した腕に力を込めた。













8月27日!!
(それは、俺らにとって大切な、  )










2012*08*28〜 フリーです

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