安榛
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季節は秋、時は放課後。冬が近付いて来たからか、最近は日が暮れるのがとても早かった。
何気なく、外を見てみる。夕日が生徒会室に差し込み、とても幻想的で綺麗だった。時間が止まっているような、そんな感覚に陥る。
「……ば…ん、榛葉さん!
聞いてますか?!
今日はもう仕事終わりですよ?帰りましょう??」
「え、あぁ…うん。」
いつの間にかぼーっとしていたようで、椿ちゃんに声をかけられた。
学校に居られる時間――もとい安形と一緒に居られる時間もあと少し、か。
俺は席を立つといつものように安形の元へ行くと思い切り肩を揺らした。
毎度毎度起こすこっちの身にもなって欲しい、なんて思ってはみるものの、安形が起きる瞬間の顔を見るのが俺は好きで。気が付けば安形を起こすのは俺の役目となっていた。
「安形…起きて。
もう帰る時間だよ?」
「んー…あぁ、あと少し…」
「もうっ、生徒会はもう終わったの!!帰るよ、ほらっ!」
「…っうわ、いきなり引っ張んな!!
もうちょっと優しい起こし方出来ねーのかよ…」
くわっ、と欠伸を一つする。
せっかく起こしてやってんのにそんな言い方ないんじゃないの、そんな思いをたっぷりと込めて睨んでやる。
「悪ぃって。
み、道流!帰るぞ〜」
俺が怒っているのに気付いたのか、吃る安形。
なかなか動かないでいると何を思ったのかほれ、なんて言いながら俺に手を差し出した。
…何なんだよこの手は。俺は思い切りその手を叩いてやった。
バシン、といい音がした。
「何やってんの。馬鹿じゃん」
「いやぁ…お前がなかなか動かないから?」
「"から?"じゃねぇよっ!」
お前のその無意識な行動にどれだけ俺がドキドキしてると思ってんだ。
俺がどれだけ平然を装ってるか、お前は知らないだろ?
そう考えると、なんだか俺だけが苦労しているように思えてきて。同時に、安形は俺にそんな感情を持っていないんだと胸が苦しくなる。
「なぁー…何でそんな顔してんだよ?
道流らしくねぇぞ?」
「な、何だよ俺らしいって!
安形俺のこと知らないだろっ?」
「いーや、知ってるね!
俺を誰だと思ってんだ。
道流の様子が違うことくらい、すぐに分かる」
「…っ馬鹿、」
ほら、まただ。
安形の言葉一つで大きく胸が高鳴る。生徒会室はもう暗くなってきているから、今俺が真っ赤なのも気付かれないだろう。
「かっかっか。
まぁそういうことだな。
そんじゃ帰るかー…
暗くなってきたし。」
「そうだね」
「道流が襲われたら大変だしな〜」
「っ!?はぁ!?
俺男!絶対そんなことないから!!」
「おほっ、何ムキになってんだよ。
冗談だ、ジョーダン」
「〜〜〜っ、安形ーっ!!」
「え、あ、ちょ…
逃げろーっ!!」
「待てー!!」
安形が逃げる。俺が追う。
そんな些細なことでも幸せだと思ってしまう俺は末期だ。
こんな幸せに浸っていた俺はまだ知らなかった。
もう二度と、安形に会えなくなるかもしれないなんて。
…俺はまだ、知らなかったんだ。
princess has been loving the man ...
(それはとても切なくて)
(愛に溢れたお話)
***
過去Clap小説。
続きます。
〜2011.12.04