BLD

□1日目
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「…っはぁ、」


就活の時期でもないのにスーツをきっちり着た沢山の男たちは、まるで誰かを探しているような素振りで辺りを見回している。普段ならば何だあいつら程度で傍観者を気取るのだが、今日はそうもいかなかった。

なんせ、やつらの目的は他でもない、俺なのだから。

そもそも事の発端は俺の兄が蒸発したことから始まった。
俺の家はまぁ言わずとも知れた財閥一家。当然後継者争いやら何やらがあるわけだけれども、運よく次男に生まれた俺にはそんな権利も回って来るはずもなく一般の人と同じような生活をしていたわけだ。だから財閥家の息子としての作法やらはそこそこに、結構自由に暮らしてたんだけど。
ある日突然何の前触れもなく兄が消えたわけだ。所謂、蒸発ってやつ。
こうして後継者が居なくなった大倉財閥は、衰えて…いくはずもなく、後継者候補に俺が挙げられた。初めは我慢してたんだけど、一向に兄が帰ってくる気配が無いからか、正式に俺を後継者にするとか言い出したから…

これは逃げるっきゃない!!

と思い海外に逃げようとしたんだけど、それが見事に見つかってしまったようで。
今こうして追いかけられているわけだ。

何とか大きい建物の影に隠れ、表を見てみると、さっきよりは数が減ってはいるものの人数は多い。

(一か八か…)

脚力には自身がある為、走り出そうか迷っていたところにスーツの一人と目があってしまった。

「いたぞ! 追えー!」

「…チッ」

あんまり無駄な体力は使いたくないけれど、捕まってしまえば元も子もない。
なるべく身を隠しながら、走る、走る。


そんなとき、目の前を緑の髪の女の子が通過する。…あ、いいこと思いついちゃった。
一般のひとは巻き込みたくないけど、緊急事態だ。仕方が無い。
いくら財閥の護衛といえど、顔も知らない人のラブシーンなどみたくないだろうし、きっと覗き込んでまで顔を確認することはないだろう。

「ちょっと来て」

抵抗されない程度の力で女の子の腕を引く。当然驚いた顔をしていたけれど、そんなことは今気にしてられないし。

「悪い、先謝っとくわ」

「えっ? …んんっ…!!?」

初めてだったらごめんね。
なんて思いながらキスする。勢い余ってちょっと深くなっちゃった。
まぁ心の中で謝ってても伝わるはずもないんだけど。

予想通りスーツは横を通り過ぎて行き、それを確認すると俺は唇を離した。
女の子の瞳は涙でウルウルしていて。ちょっとやりすぎた…かな?

「ごめ…」

「…っさいってーだな!」

暴言と共に飛んできたのは力強いビンタ。
なにが起こったか理解する前に女の子は何処かに行ってしまった。
と、言うか…

「いたぞー!!」

「…!」

あの子が大声を出したせいでやはりスーツ集団に見つかってしまったじゃないか。

(やっぱりこれじゃ駄目か…)

そう思った俺は少し遠回りだが行き着けの店で着替えをすることにした。
あそこなら、きっと俺が行ったこと黙っててくれるだろうし。

こうして変装した俺は堂々と歩いて…とまでは行いかないがスーツに俺だということがバレずにその場を凌げそうだ。

目指すは、有人さんの居る雷門中!


(と言うか、どうして女装なんだよ…)



1日目-1!







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