短編2

□私と佐武君と青い春
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いつもと変わりない昼休み。
友達と集まってお弁当をつつきながら、繰り広げられる会話に相づちをうつ。
女子高生ってすごいなあ…なんて、自分だって女子高生なのに。ユキちゃん達との会話はまるで未知との遭遇。
彼女達とは違い、引っ込み思案で人見知りな私は、いつも眩しく見える友人を羨ましいを通り越して誇らしく思うのだ。


「わあ…!また今回も上手だこと…!」
「ユキちゃ、恥ずかしいからあまり広げないで…!」


大川学園では珍しい文化部である私は、美術部であることを良いことに、ベランダで毎日のようにスケッチをしている。
体育会系のこの学園には美しい被写体ばかりでむしろ描いているこちらが申し訳なくなるほど。これ私?なんて首を傾げるユキちゃんに昨日も素敵だったよと微笑めば、ぎゅっと抱きつかれた。なんか…役得?
ぱらぱらとスケッチブックを捲るトモミちゃんを横目に、玉子焼きを口に運ぶ。今日も美味しい。


「ユキちゃん」
「うん?…ちょっと、あんたこれ」
「う?」

ミートボールを咀嚼しようかというとき、目の前にあるページが広げられた。
バットを構える姿、ボールを持つ手、横顔、今まで女の子しか描かれなかったスケッチブックに突如現れた野球部員。やばい、忘れてた。


「これ…まさか、佐武…?」
「え?!っ、いや、ちが、あの…えと…!」


今まで浮わついた話一つ出てこなかった私は、話すまで許さないと言わんばかりに二人に問い詰められて、結局洗いざらい吐かされることになった。

そのころ隣のクラスでも同じような話をしていただなんて、当の本人二人は知るよしもなかった。



「かわいかった」
「きもちわりぃな虎若」


それは一ヶ月ほど前。
放課後、団蔵が借りっぱなしにしていた本をジュース1本につられて返しにいった時。
無駄に広い図書室の端っこで、彼女は一番上の棚に手を伸ばしていた。届きそうで届かない、一生懸命背伸びしている姿は可愛らしく、長いくせ毛の髪がふわふわと揺れていた。
思えば彼女に片想いし始めて一年。
人見知りな彼女との接点などまるでなく、ましてや話した事さえなく、この淡い想いはきっと恵まれずに消えていくのだろうと思っていた。


「…これ?」
「あ…」


少しの下心を抱えて、彼女の後ろから被さるように本を取った。ふわりと香るのはシャンプーだろうか、それだけでどきどきと心臓が跳ねる。

「あ、りがとう…!」
「いや、たいしたことじゃないから」


そういってすぐ立ち去った事に後悔。
上手くやれば、もっと話せたかもしれないのに。
ため息をつきながら項垂れれば、団蔵が目の前で苺牛乳を吸いながら、虎若が図書室とか雪でも降んじゃね?とか宣いやがったので弁当の唐揚げを問答無用でいただいてやった。


「ああ!俺の唐揚げ!」
「お前の本を返しにいったんだろーが、お前の」
「そうだっけ?ってかいい匂いとかお前、まさかそれでヌいて…」
「唐揚げ1つじゃたんねぇのか、馬鹿旦那」


冗談だろー、怒んなよー!なんてニタニタ笑う団蔵に、ますます項垂れた。
こんなやつでもすこぶるモテるのだから仕方ない。我関せずの金吾の隣で喜三太がぽそりと、彼女、虎若が降りる駅の次が最寄り駅だよお。と呟いた。目を丸くして喜三太を見れば人差し指を唇に当てて、内緒ねと笑った。




交差する二人
(焦れったくて)
(甘い)
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