短編2

□罪を犯すから
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また来てくれたんですか?と病室のベットの上で微笑む彼女は、驚くほど白く、月の光を浴びる天使のようだと思った。
漆黒の髪がふわりと揺れて、窓に腰かける自分を誘う。
気が付けば、頭部の赤いランプが点滅をして録画を知らせていた。
彼女の表情ひとつひとつ、録り残しのないように…無意識のうちに、メモリーに彼女の姿が増えていく。


「今日はどんなお話ですか?泥棒さん」


そう聞く彼女に私は言葉を発する事もなく、当たり前の様に隣に腰を下ろす。ぱちりと自分の頭部から画面を開くと、本日公開のアニメーション作品が再生され始めた。
ぱちぱち、と拍手をすると彼女は画面に釘付けになった。
今回の作品は、彼女の好みにぴたりとはまったらしい。



ベットに寄りかかり、左隣には愛しい彼女。月明かりの照らす、薄暗い病室に二人きり。

こうして映画を観るのも、もう何度目だろうか。
作品の中で一喜一憂する彼女は、くすくす笑ったり、息を飲んだり。怖いシーンでは、手を握ってきたり。
最初こそどぎまぎしたが、今となってはそれも心地よい。

感動の涙を流すのならば、隣で顔をぬぐうのは、私の役目だ。

エンドロールが流れ始めると、こてんと肩が重くなる。寝息をたてる彼女に微笑んで、自分も彼女に頭を預けてみた。

未だ暗い窓を見つめながら思う。
今のうちに、ここを去らなければ。


病室から出られない彼女、外の世界を知らない彼女。
ならば私は、いつだって、何度だって君に新しい世界を見せてあげる。
パトランプに追いかけられたって、罰金を支払ったって…そんなの屁でもないね。


だから、もう少しだけ。
もう少しだけ、君の思い出を私に下さい。メモリーに入らなくなるまで、君の隣にいさせてください。

映画の流れる二時間だけは、私だけを見つめてください。


それが叶うなら、私は何度だって。










罪を犯すから。
(いい夢が見れます様に)
(寝息をたてる彼女のために)
(私はまた映画館に向かうのです)



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