短編2

□つかの間の新婚旅行
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京都で行われた未来企画賛同団体の講演会。あくまで賛同団体であって、未来企画ではないが、来賓として出席することになった。

わざわざ京都まで出向く必要も無かったのだが、利用価値のある団体であったし、まあ…切り捨てるのも惜しかったからと言うことにしておこう。

今回は相手側からの希望もあって、初めて彼女を妻として会場に連れて行くことになった。
少々緊張しているようだが、母の着物がよく似合っている。
150名ほどの小規模なものだから、彼女が会場に慣れる良い機会にもなっただろう。

時間にして三時間ほどで終えることが出来た講演会だが、立食式の講演会に妻を出席させるのは、今後控えた方が良さそうだと、予想外の心配事に頭を抱えることになった。

壇上に上ることのない彼女は、あまり顔を知られていない。挨拶回りで紹介していたら話は別だったのだが…彼女に声を掛ける男どもの多いこと。
後半は細い腰をがっちりホールドせざる終えなくなってしまった。
当の本人は何もわかってないようで「あ、これ美味しいです」なんて料理に舌鼓を打っている。

まったくもって罪な人だ。




「う、わあ!露天風呂ついてますよ、慧さん」

「経費を惜しげもなく使ってくれたようだね」



講演会終わりに案内されたのは、京都の高級旅館。貸し切り温泉のついた離れを予約してくれたようだが、接待にしてはいささか、やり過ぎのような気もしなくない。
まあ、我が妻は子供のようにはしゃいでいるから、その点は感謝しておこう。


「すっごい、お湯。ちゃんと効能が書いてありますよ…えっと、リウマチ肩凝り…眼精疲労!眼精疲労ですって慧さん!」

「眼精疲労?君は目は悪くないだろう?」

「私じゃなくて、慧さん。今日、ずっと目元押さえてたから」



いや、別に目が疲れている訳ではなかったんだが。頭悩ませる原因が自分だとは全く考えていないのだろうね。
あまりの鈍感さに、少しばかり悪戯心が芽生えてしまったので上着を脱ぎながら、それとなく一言声を掛けてみた。


「じゃあお風呂入ろうか」

「はい!…あ、え?」


先に行ってるから心の準備が出来たらおいで。と微笑みかけると彼女はピシリと固まった。みるみる顔が赤くなる彼女を横目に自分は脱衣場へと足を運ぶ。

少しいじめすぎたかな、と湯船に浸かりながら考えていると、奥からカラカラと扉の開く音がする。
振り返ると、やっぱり顔を真っ赤にした彼女が、タオルを巻いて湯煙の中に立っていた。



「は、ずかしすぎます…!」

「何を今更。もっと恥ずかしいことしてるだろう」

「慧さん…!」

「ごめんごめん。意地悪し過ぎたね、早くこっちおいで。風邪をひく」



乳白色の湯に彼女の肌が溶けていく。
一向に目を合わせてくれない彼女の手を引いて、自分の膝の間に座らせると、何だか愛しさが込み上げて、首筋にちゅ、と唇を落とした。


「さ、慧さん…」

「なんか、いいなあと思って。そう言えば新婚旅行もままならなかったし、二人でこうゆっくり温泉に浸かるなんてなかったからね。こればっかりは、今回の主催に感謝しなくては」

「……わ、たしも。嬉しいです、こうやってゆっくり過ごせて。少しくらい、新婚旅行気分を味わっても、バチ当たらないですよね」



えへへ、とはにかむ彼女にプチンと理性が切れる。
男の性というのはあっけないもので、何だか彼女のことになると大人の余裕と言うか、理性の箍がとてつもなく緩くなるらしい。思春期真っ盛りの高校生じゃあるまいし…とも思うのだが、正直止めるつもりもない。


まあ、俺もまだまだ若い証拠かな。



「ちょ、のぼせ…っ」

「ごめん、止まらない」




つかの間の新婚旅行
(っ、うう…ふ、あ)
(声、我慢しないで)




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