短編2

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もう少しで日付が変わる。
同室の友人はすでに寝息をたてていて、起こさぬようにそっと服を脱いだ。
シャワーだけでも、とタオルを準備していると、ベットに投げていた携帯がちかちかとメールを知らせていた。


今日は付き合ってくれてありがとう。時間を忘れるほど楽しかった。
君もそう思ってくれていると嬉しい。
また予定が分かり次第、連絡します。
次は君と、美味しいお酒が飲めるお店に行きたいな。


そんなメールを受信したのは5分ほど前だった様で、とっさに私も…と返信しようとして手が止まった。
私も…、なんだ。今なんて書きたかったんだ、私は。

ため息をつきながら携帯を閉じて、今日のひとときを思い出す。
案内されたのは個人経営の創作料理店で、店長は学生時代の友人らしかった。そこで普通に食事をして、雑談して…ちょこっと口説かれて。
最初こそ、きっと会話も続かないだろうと思っていたのに、驚くほど話が合った。…まあ、彼が話上手、聞き上手なだけかも知れないけど。

食事の後、行きたいところがあるんだと言われて、夜景の綺麗な展望台に案内された。すごくベタなのに、何故か手塚さんだとスマートに思えるのがとても不思議。
でもびっくりするくらい綺麗で驚いていると、少しだけいいかい?と私の肩を抱いた。思わず、かちんっと固まって顔を赤くすると、彼が隣でくすくす笑った。

今思えば…嫌じゃなかった…かもしれない。


帰りは少しだけドライブしながら、日付が変わる前に寮まで送り届けてくれた。
勿論、手塚さんが車だった事もあるけれど、二人とも一滴も飲んでない。
覚悟していた男女間にありがちなことだって、いっさい何もなかった。

…そう、本当に何もなかったのだ。


「って…私は何を考えて…」


…まるで何か起こった方が良かったみたいな…。
その瞬間、ぼんっ!と効果音が付きそうなほど、顔に熱が集まるのが分かった。思考が上手く繋がらなくて、思わず顔を覆う。

待って、ちょっと待って。
これじゃまるで私が…。



彼の事が好きみたいじゃない。
(結局、その日のお礼と次も会っても良いかなくらいには思ってます。みたいな子供染みたメールしか送れなくて、一人でへこんだ)
(…これは"次も会いたい"って読んでも良いのかな。)

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