短編2

□宣戦布告なんてね
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どうしてこんな状況に陥っているのか、皆目検討もつかない。
目立ちすぎず、暗すぎず…適度に楽しい学校生活を送って来たというのに、何故…私はこの男に目をつけられたのか。
せっかくのおやつもそこそこに、大広間から連れ出され、助けを求めた友人には、ひらひらと手を振られてしまった。
…ぜったい防衛術の課題なんか手伝ってやるものか。
感情が顔に出ていたのか、目の前のプラチナブロンドの上級生は、私を壁に押し付けたまま、クツクツと喉を鳴らして笑っていた。
ホグワーツで彼の名を知らない者はいない、権力から家柄…魔術の才能に至るまで、彼は完璧であった。
冷酷ささえも、スリザリンでは飛び抜けている。…だからこそ、私は関わりたくなかった、関わることはないと思っていたのに。
そんな彼が、長い髪を後ろで緩く束ね、じっと私を見つめていた。
そう長い時間でもないだろうが、私にはもう何時間にも感じられる。
恐怖と羞恥と、なんだかわからない感情は入り乱れて、なぜだか顔を火照らせた。


「ど、いて、いただけませんか…、ルシウス先輩…」

「ほう、私の名を知っていたのか」

「知らない人はいないと思いますけど…」


言ったところで退く気配はなく…せめて視線だけはと、かち割らぬよう下にそらす。
その様子にふっと笑いながら、彼は一房、私の髪を掬って口付けた。
ちゅ、とリップ音が耳元で響き、どきりと心臓がはねる。
顔には熱が集まり、彼を押し退けようと下ろしていた腕を伸ばすけれど…どうしたって男の力に叶うわけもなく、更に彼は私との距離を近づけた。


「ジャパニーズは本当に髪が黒いのだな」

「な、にを今更…っ…離し、て」


耳元の吐息に息を飲み、ぎゅうと目を瞑った。
日本人の私には耐え難い、過度のスキンシップにそろそろ涙が出そうである。


「そう震えるな、べつに捕って食いはしない」


もう十分捕って食われてるようなもんだよ!と言ってやりたいが、そうもいかず、弱々しくも精一杯腕を突っぱねる。だが、視界に入る緑色のネクタイが、嫌でも今の状況を物語った。

「ほん、と近、い…!」

「なにもそこまで嫌がる事はないだろう、私はお前を好いていると言うのに。」

「へ、あ、はあ…?」


なんだかとんでもない事を聞いた気がして、ぱっと顔を上げると…なんとも言えぬ、強いて言えば辛そうな表情をした彼が目に入った。
今だかつて見たことがない、いつも自信満々で笑っている姿からは想像もつかない表情に、こんな顔も出来たのかと、思わず腕の力を緩めた。


「せ、んぱ…?」

「…全く私もどうかしている。…なんでまたこんな鈍感で、何を考えてるのか分からない女を…。謙遜が美徳だかなんだか知らないが、自分の美しささえも理解していない、無自覚で無防備な…そんなお前がどうしてこうも愛しいのか」

「っや、あの、まっ」

「お前は私がどれだけ苦労したか知っているのか?男共を遠ざけ、手紙を破り捨て、課題をしているお前を待つためだけに図書室に通ったと言うのに。なのにお前は私を避け、話そうともしない。目立たず、一歩引きながら友の後ろを歩き、ひっそりと生活をして。それがお前のポリシーだとでもいうのか?私の好意に当人が微塵も気づいていないとは!どれだけ私がブラックに馬鹿にされるかわからん!」


私は言われた事を頭で整理しながら、
たどり着いた答えに首をかしげた。
ルシウス先輩が私を好いている?
その瞬間、ぼっと顔に熱が集まり、思わず手でおおった。


「ちょっと待って下さ、い…今顔見ないで」

「やっと自覚したか?私はもう嫌と言うほど待ったぞ」

「ひ、や、あの…私、好きかどうかもわからな、いですし…」

「じゃあ好きになればいい。明日から覚悟して大広間に来るんだな」


そう言って最後に私の頬にキスすると、ひらりとローブを翻した。
去っていく後ろ姿を見ながら立ち尽くし、頬を押さえる。


「な、にを覚悟しろっていうのよ…」



宣戦布告というか、なんというか。
(おはよう、遅かったね。さあ、朝食を取りに行こうか。)
(勿論、ホグズミートへは私と行くだろう?)

*
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