短編2

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職業柄か時間5分前に待ち合わせ場所に着いたはずなのに、白い高級車はすでに私を待っていた。
いつものスーツより少し崩した格好で、それでも気品漂うスタイルは高級車に負けてない。



「来てくれて嬉しいよ」

「…さすがに約束は守りますよ」


どうぞ、と助手席にエスコートされて心臓が痛いくらいに跳ねた。男性にドアを開けて貰うなんて経験はまず無いので、俯いてしまうのは許して欲しいと思う。ついでに顔が熱いのも気付かないでくれると嬉しい。
本当は寮まで迎えに行くよ、と言われたのだけど最寄駅にしてもらって正解だったみたい。こんなところ、見られたら恥ずかしくてどうにかなってしまうかも知れないし…女子寮の噂の種にしかならない。

ドアを閉めると、車の中はふわりとコロンの香りがした。



「初めてのデートだからね。言った通り、行きつけの店に招待するよ。でも、なんか…今日の君はいつもと違うから調子狂うな」

「はい?」

「制服姿の君しか見たこと無かったからね。綺麗だよ、すごく。今日はようやっと独り占め出来る」


なんてことをサラっと言うんだろうか。
きゅっと胸が締め付けられる感覚を感じながら、からかわないで下さい、と精一杯強がってみせた。
約束を取り付けられた夜から、着る服で悩んでいたとか、当日になったとたん目の前にいる人の事ばかり考えていたとか…口を滑らせられない事ばっかりで、下を向いたまま顔が上げられない。
いつから私はこんなにも彼を意識するようになってしまったんだろう。


「顔が赤いって事は、少しは俺のこと意識してくれる様になった?」

「っ…して、な…!」

「やっとこっち見た」



ほらやっぱり綺麗だ、なんて微笑まれて…どうしていいかわからなくなった。
なんでそんな優しい顔するの。


「さ、行こうか。予約の時間だ」



とびっきりの時間をあげるから
(どうか早く俺に落ちて)

*

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