短編2

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「心理学につ、いてはこちらです…心理小説については一つ向こ、うの棚になります…」


さっきから一度も目を見られない。
見られるはずもない、だって「恋について調べたいんだ。君への感情は何なのかと思ってね」なんて面と向かって言われて、顔なんか見られようか。私には無理だ。


「論文などはまた別の分類になりますので…」


ああ、もうそんなまじまじと見ないで欲しい。顔が赤いのはとっくにバレてしまってるんだろうが、それでも平静は装っていたい。
早く終われ…!と思っているからか、自然と早口になってしまうが、そんなこと構っていられない。


「こ、の作品などは参考、になるかと」

「っく…くくっ…あはは!そんなに嫌かい?それとも緊張してる?」

「えっ」

「さっきから噛み噛みだし、少し早口で話すから」



うわ、やっぱりバレてる。
顔を上げると、やっと目を見てくれたねと微笑まれた。そんな笑顔を私に向けないで欲しい。
俯いた私に、機嫌を損ねたと思ったのか手塚さんは言った。


「すまないね、レファレンスは2人きりになる口実なんだ。カウンターじゃ何も出来ないからね」

「何する気ですか…」

「身構えないで欲しいな、別に取って食おうってんじゃない」



これを、と渡されたのは一枚の名刺で。仕事用じゃなくてプライベート用のアドレスだから連絡して下さい、と手塚さんは微笑んだ。


「…いや、名刺を頂いても…」

「必ず連絡下さい、待っているから」

「…しなかったら?」

「またここに通うし、それでも駄目なら名指しでレファレンス態度のクレームを入れる」

「はあ?!」



私の驚きをよそに、それではまたなんて言って手塚さんは帰っていった。冗談っぽく言ったけれど、レファレンスのクレームとか…あの人ならやりかねない。
手の中の名刺を見つめ、私は人知れずため息をつき、カウンターへ足を進めた。



君を絶対手に入れたい。
(そのためには連絡をくれないと意味がないから)



*あとがき
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